僕の大学デビュー天下取り物語

四月。入学式の会場へと続く坂道を、桜が彩っていた。地元の福岡から車で四時間半。南国、宮崎。

初めてのスーツをぎこちなく身にまとい、僕は不安と期待を胸にその坂道を登っていた。風に乗って舞い散る桜の花びらが、僕の入学を祝福してくれているような気もする。

「宮崎大学」

今日から僕の新しい生活がここで始まる。

初めての一人暮らし。初めての大学生活。

入学式の会場は、すでにたくさんのスーツを着た学生達でごった返していた。田舎の国立大学だ。あまり派手なヤツはいない。ほとんどが黒髪や申し訳程度に茶髪にした、まだ垢抜けてない感じの芋臭い子ばかりだ。

その中から僕はできるだけ目立っているヤツを探した。赤髪、金髪、長髪、ツイストパーマ……。

おっ、あいつはなかなかイケメンだな。一緒にいると女子が寄ってくるだろう。

おっ、あいつは身長高いし、スーツの着こなしもオシャレだな。この田舎でもセンスが良いグループになりそうだ。

おっ、あいつはゴツくて強そうだ。スポーツマンかな。とにかく一緒にいると他のグループの男に舐められなさそうだ。とにかくなんとしても、最初のうちに目立っているヤツらと仲良くならなければいけない。

そう、僕は完璧な大学デビューを果たそうとしているのだから。

「見て。あそこにいる子、可愛くない?」

一緒に同じ大学に来た高校からの同級生が、能天気に話しかけてくる。

村崎タカシ。かなり身長は低いが、明るくて良いヤツだ。申し訳程度に茶髪にしている。村崎は、高校の頃は持ち前の愛嬌でそれなりに目立っていて、人気も多少あった。

体育祭のとき、全校生徒の前で自分の肛門を指差しながら「洞窟発見」という嘘みたいにつまらないギャグをやっても、何故か村崎がやればウケていた。

だが、高校で目立っていたヤツが大学でも目立てるとは限らない。特にこいつは身長が低い分、初対面はちょっとナメられやすい。

大学生活はスタートダッシュが肝心だ。こいつのペースで進んでいけば、出遅れる可能性がある。そうすれば僕らは、キラキラした女子達とワイワイやってる一軍のグループを横目に、二人だけで愚痴や文句を言い合いながら過ごす童貞大学生になってしまう。

言い忘れてたが、もちろん僕も村崎も童貞だ。高校のときに彼女はいた時期もあったが、ビビッてキスすらできなかった芋野郎だ。