僕の大学デビュー天下取り物語
僕の地元、福岡県北九州市はかなり治安の悪いところだった。よく荒れる成人式とかがテレビで特集されたりしているから知っている人もいるかもしれないが、元々炭鉱の町だった影響か、とにかくガラの悪い人が多かった。
夜のドン・キホーテ前なんかは光に集まる蛾のようにヤンキーがたむろしていた。少しでも目が合えば因縁をつけられるため、ドンキホーテに買い物に行くときはみんな連行される犯罪者くらい頭を下げて入店していた。
今から整体院を開業したい人は、是非北九州市でどうぞ。北九州の人はみんな頭を下げすぎて首が曲がってるから。そんな冗談も言えるくらいだ。
中学生の頃、カラオケに行ったときはシンナーを押し売りに来る高校生がいたので、必ず部屋の鍵は閉めていた。
上履きがティンバーランドになっている中学校もあった。悪すぎて誰も上履きを履かずに、みんなティンバーランドを履いて土足で教室に入るのだ。その学校ではよく先生がヤンキーによって、廊下に立たされていたらしい。
僕の通っていた中学校にも勿論ヤンキーはいて、学校のスクールカーストでは上位に君臨していた。
そしてスクールカーストで上位にいるからかもしれないが、田舎ではヤンキーというのはとにかくモテた。可愛いらしいあの子も、ちょっと大人びたエッチな雰囲気のあの子も、みんなヤンキーと付き合っていた。
僕は中学の頃、好きだった女の子がいた。切れ長の綺麗な目をした美穂ちゃんという女の子だった。美穂ちゃんはまさにクラスのマドンナ的存在で、みんな彼女の言動を意識していた。
一年生の頃に同じクラスでたまたま席が隣になり、僕らは話すようになった。
彼女はディズニーが好きで、特にアリエルが好きだった。僕は全然アリエルより彼女の方が美しいと思っていた。
僕が漫画の「ワンピース」が面白いと言ったら、彼女も見たいというので僕は一巻から順に彼女に貸すことになった。席替えで席が離れても、漫画の貸し借りをするときだけは彼女と話した。
当時、ワンピースは十三巻くらいまでしか出ておらず、僕は彼女に全部貸し終わって話す機会がなくなるのが嫌で、月に二冊のペースでゆっくり貸していた。どれだけ席が離れても漫画の貸し借りをするときだけは無条件に彼女と話せるのだ。
ちょうど持っている全ての巻を貸し終わり返ってきたぐらいで、クラス替えがあり、僕は彼女と違うクラスになった。
当時は携帯電話なども持ってなくてそこから話すこともなくなったが、僕はいつもワンピースの最新刊が出ないか心待ちにしていた。最新刊さえ出れば、漫画を貸すという口実で、また彼女と話すことができる。
そして、待ちに待った最新刊が出た日、僕はすぐに本屋で購入して、彼女のいる新しいクラスに向かった。正直、最新刊は自分でも読んでなかった。これを彼女に貸して話すことだけを考えていた。
そして、漫画と一緒に、僕は彼女にもう一つプレゼントも買っていた。彼女が喜んでくれるであろうとっておきのプレゼントだ。
休み時間、彼女のいる教室の前で待っていると、彼女が新しいクラスの新しい友達と楽しそうに談笑しながら廊下に出てきた。