僕の大学デビュー天下取り物語
自分から返してもらいに行くのも違う気がして、僕は気長に待つことにした。そんなある日の休み時間、隣のクラスのヤンキーが教室に遊びに来ていた。そのヤンキーは僕のクラスのヤンキーと下品な話をしていた。女の子とヤっただの、どうのこうの。
超童貞の僕には全く縁のない話だ。だが勿論興味はある。僕は机に突っ伏して寝たフリをしながら聞き耳を立てていた。
「バリ最高やったばい! もう途中からすげー激しくなって!」
「マジで?」
「おう、美穂も最初は照れとったけど……」
ビクっとした。美穂ちゃんの名前が出たのだ。
一瞬で僕の心臓と世界が止まった。動機が激しくなる。いや、違う。あの子のはずがない。あの子はボールペン渡したときに、あんなに喜んでいたはずだ。同じ名前の違う子だ。そうだ、そうに決まっている。
隣のクラスのヤンキーは、何故かそのエッチした女がどんなおっぱいだったのかを、絵に書いて説明しようとしてるみたいだ。
僕は気づかれないように、そっとそいつの方を見た。
そいつは、僕が彼女に渡したはずのアリエルのボールペンを持っていた。
「アリエナイ……」
本当にそう思った。
そのときから、僕はヤンキーに対していいなーという羨望の感情を持つようになった。そして、とてもズルいと。あいつらは苦しい試験勉強もせず、窮屈な校則に縛られることもなく、好きなように生きてる癖に欲しい物は何でも手に入れる。
男には恐れられて、女の子にはモテる。いつだって気を使ったり損をするのは真面目に生きている僕らだ。
僕もヤンキーになろう。一瞬そう思ったが、無理だった。当時の僕にこんな危ない地区でヤンキーの道へ進む勇気なんかなかった。
勉強を頑張ろう。そしてこいつらのいない世界へ行くんだ。胸にずっとヤンキーへの憧れと嫉妬を秘めたまま、僕は勉強を頑張ることにした。
そのおかげもあって、高校は県内でも有数の進学校に進むことができた。
僕の高校は山の上にある、地元では「山の上にある監獄」と揶揄されるほど規則も厳しいところだった。
月に一度ある頭髪検査では、男子は一ミリでも眉毛や耳に髪の毛がかかっていたら、生活指導室送りとなり、女子も脛くらいまでの長いスカートを履いて、髪をきつく黒色のゴムで結ぶことを強制された。
朝五時半に起きて、一時間半かけて電車とバスを乗り継いで零限目の授業に出て、小テストで名前を書き忘れたときは居残りで自分の名前を千回書かされた。少しズボンからシャツが出ているだけで、廊下で耳を引っ張りあげられた。
とにかくドがつくほど真面目な高校で、卒業生には外務大臣や有名な会社経営者などがいる伝統ある学校だ。ヤンキーなんか間違っても生まれないように、熊のような生活指導の先生たちが徹底的に目を光らせていた。
この真面目で監獄のような学校だったが、せめてこの中では一軍になって幅を効かせようと思ったが、そうもいかなかった。