僕の大学デビュー天下取り物語
「でもお前はこれからか……少し遅いけど、じゃあ今から頑張らんとな。やりたいこととかねえの?」
隆志にそう聞かれて言葉が出なかった。やりたいこと……ないのだ。
隆志はいつもの、うどんをすすっている。
「オレなんか、なんだって無理だよ」
自分の不安がポツリと溢れる。
「ほら、オレって口だけやん? 就活のタイミングも逃しちゃってるしさ。オレみたいなやつは、なんだって無理だろ」
自分を思いっきり卑下すると、涙が溢れそうになった。なんで今こんなことを見返したい相手でもある隆志に言ってるのだろう。
でも止まらなかった。隆志を前に強がりたいはずなのに、自分を卑下する言葉が止まらない。
「オレは、もうダメだよ……」
せめてもの抵抗で無理矢理、情けない笑顔を作った。そんな僕に、隆志は箸を置くと思ってもない言葉を言ってきた。
「そんなことねぇよ。おまえって、すげえやん」
「えっ?」
「だからお前って結構すげえやつやん。オレ、お前なら何にでもなれるって思っとるよ」
「オレが? すごい?」
普通にその言葉が出た。隆志からしたら、オレはゆってぃのモノマネしながら、無理して大学デビューかまして、ボコボコにされて痛い目見た。それだけのヤツのはずだ。
「ほら、だってお前さ。最初の方、この農学部まとめとったやん。みんなお前のところ集まってさ。普通、大学デビューなのにそんなことできねえよ。才能やから、それも。人を惹きつける」
「えっ……」
「それに村崎に聞いたんやけど、お前ボクシング始めたのってリベンジのためやっちゃろ? 大学生にもなって、そんな漫画みたいなことできるってどんだけ真っ直ぐなんよ。そんな真っ直ぐなヤツ、あんまりいないって」
隆志はそう言うと、笑う。
でもそれは僕を馬鹿にした笑いではないことが分かる。
「お前ってダサいところあるけどさ、本当に面白いからオレは一緒にいたけどな。普段の会話とかも面白いし。
まあ、無理して芸人の真似とかしとるときは微妙やったけど……あー、あと! お前らが、入学してすぐやってたヤンキーの変なカードゲームみたいなヤツ! あれ、めっちゃ面白かったやん。意味わからんかったけど。」
「あったな、そんなやつ……」
隆志が僕のことをそんな風に思っていたなんて、想像もしていなかった。てっきり僕は心からバカにされているものだと思っていた。一人で勝手に考えすぎて、恨んで、隆志を見返したいと願って……。僕は一体何をしていたんだろう。