隆志が食べ終わったうどんを持って、席を立つ。
「じゃあ、先行くわ」
「お、おう」
「まあ、なんて言うか、オレお前の将来には期待しとるよ。どの道進んでもすげーやつなるんやないかって。だから、卒業してもよろしく」
隆志はそう言うと学食を出ていった。
隆志の背中を見送りながら「なんかあいつ、かっこいいな」と純粋に思った。
友達の為に体も張れて、喧嘩も強くて、こんな僕でも良いところを見つけ出して褒めて励ますことができる。かっこいいよ。僕は多分ずっと隆志に憧れてたんだ。そして嫉妬していた。
そしてそんな隆志がこんな僕を別のところで評価してくれていたことが分かった今、僕には隆志に対してもう嬉しい以外の感情は残されていなかった。
こんなことなら初めから変に強がらず、素の自分でいればよかった。その素の自分を面白がってくれる人がいれば、無理に背伸びなんてしなくても友達なんてできるのだから。
それにきっと僕が本当に一番楽しかったのは、虚勢を張って、バレないようにびくびくしながらイキってたときじゃない。自分が素でいれたときだ。
初セックスがうまくいかなかったとみんなに情けない相談をして笑われて、でもうまくいったときはみんなに祝ってもらって。「卒業」を歌ってもらって。
そういうダサい姿も全部さらけ出して、本当に素でいたとき。そしてそんな素の自分をみんなが受け入れてくれたとき。そのときが一番楽しかったのだと、やっと気が付いた。
大学デビューってなんなんだろうか。初めからそんなものいらないし、考える必要もなかったのかもしれない。
学食から外を見るとたくさんのスーツを着た大学生が歩いている。その中には村崎も隆志も新一郎も金髪坊主も混じっているのだろう。みんな過去なんかじゃない、これからの未来に向けて歩いている。
僕は……僕は一体何をしていたんだろう。
咲きはじめた桜は、入学式のときと変わらずに綺麗だった。
バイト終わり、深夜に蕎麦屋でカツ丼を食べていた。店内はおじいちゃんの店員さんと、僕一人。寂しい店内には薄く何かの演歌のような歌が流れていた。
昼間、隆志に言われた言葉が頭を巡っていた。これからの僕はなにができるのだろう。どんな未来が待っているのだろう。
【前回の記事を読む】「もう一回、リベンジさせろよ」3年越しにとうとうこの時が来た。威勢よくケンカを吹っ掛けるも、彼の眼中に僕はおらず......
次回更新は1月15日(水)、18時の予定です。
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