序章 突如変化した日常 ─突然、妻が病気に─
名古屋第二赤十字病院救急救命センター(現在は日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院)
私は幸いその日、自宅にいました。
「足に力が入らなくって何だか嫌な気分だけど、ちょっと休めばきっと治るよ」妻は気丈にそう言い残して2階の寝室に向かいました。階段を上がるのがきつそうでした。
「手を貸そうか」
普段はそんな言葉をかけたこともない私も、さすがにその姿を目にして少し心配になりました。
「大丈夫」
妻は階段の手すりにつかまり、一人で上がっていきました。私もそんな妻の言葉を聞いて、少し横になっていれば治まるだろうと思いなおし、気持ちもちょっと落ち着きました。
その夜、真夜中すぎのことです。
「何だか足がおかしい。力が抜けて足の感覚がなくなっていくような気がする」
妻が緊張した声で私を起こしました。部屋の灯りをつけると、かなり辛そうな様子です。
「救急車を呼ぼうか」
これまでこんなことはなかったので、私も不安になりました。
「朝までなら、何とか我慢できると思う。朝になったら整形外科に連れて行ってくれる」
その言葉とは裏腹に妻の不安な気持ちが、私にも強く伝わります。妻は自分の気持ちをしっかり持とうと、我慢し耐えている様子でした。私はその緊迫した状況にすっかり目も覚めました。
このままでは、もっと深刻な状態になってしまうと心配が増すばかりでした。そう思うともう迷いも何もなく急いで救急車を呼びました。
サイレンが近づいてきて、我が家のちょっと先でその音が消えます。すこしの間をおいて、救急車のスタッフがインターホンから呼びかけてきました。妻はその時もう足の力が抜けたような状態で、抱きかかえられて救急車に乗り込んでいきました。