僕の大学デビュー天下取り物語
外から男女のキャッキャというはしゃぐ声が聞こえていた。少し、嫌な予感がした。その声はどんどん近づいてきて、とうとう店の中に入ってきた。
そっと目をやると、エグザイルのパチモンみたいな格好をした男五人と、倖田來未のパチモンみたいな女一人だった。
エグザイルのパチモンでわかるだろうか。夜の街とかでよく見る、色黒で、ヒゲを生やして、ジェルでガチガチに髪を固めて、細身のスーツにネックレスをのぞかせているあの感じだ。倖田來未のパチモンは、胸をはだけさせてメイクが濃ゆいエロいヤツだ。
そいつらは何故か僕の隣に陣取ると、生ビールの食券を何枚か出して、更に外から持ち込んだ缶ビールを出して、酒盛りを始めた。
絵に描いたようようなヤカラだ。店員の気弱そうなおじいちゃんも注意できず、オロオロしている。
僕は絶対に関わらないように、一切そいつらの方を見ずに、二倍速でカツ丼をかきこんだ。
頼む。干渉してこないでくれ。
そう願うのも束の間、そのパチモンエグザイルのリーダーみたいなやつが絡んできた。そのリーダーみたいなヤツはグループの中でも断トツで色黒で目が細かった。
そいつは、僕に缶ビールを一つ渡すと、
「なあ、乾杯の音頭とってや」と言ってきた。
「え、いや……」
僕が戸惑っていると、その反応で周りがケタケタ笑っている。女も「ちょっとやめなよー、可哀想ー」とか言ってるが、イジメられっ子を見るようにニヤニヤと笑っている。
言葉の裏にも「ウチの悪い彼氏がまたヤンチャしてて困るー。もーう。ウチの彼氏悪いでしょー? まんざらでもないけどー」感が出ている。
こういうときにこいつらを笑わせられる面白い乾杯なんてあるのだろうか。僕は、普通に「あっ、すいません。皆様、今日もお疲れ様です。かんぱーい」とだけ言って、缶ビールを上にあげると、そのリーダーが僕の缶ビールを取り上げてきた。
「お前、面白くない。ビール、没収でーす」
嘘みたいだった。出会ったばかりでこんなに失礼で、傍若無人なヤツがこの世にいるんだと呆気にとられた。
そいつがパチモン倖田來未のはだけた胸を指差しながら「かんぱーい、おっぱーい」と言うと、みんなで酒を飲み始めた。
僕はそこから、カツ丼の味が全くしなくなった。今起こった現実が信じられず、そしてフツフツと自分の中に怒りが沸き起こってくるのを感じた。
カツ丼の器を持つ手が怒りで震える。なんで今こんな思いをしなきゃいけないんだろう。こいつらと違って、僕は全てが上手くいっていないのに。
盛り上がっているそいつらを尻目に、僕は味のしなくなったカツ丼を半分くらい残して店を出ようとした。そのときだった。出口の近くに座っていた、パチモンリーダーが足を上げて出口を塞いだ。