僕の大学デビュー天下取り物語
そこからの動きは早かった。気がつくと、僕の体は勝手に動いていた。
ビールをかけられた瞬間、僕は半身になると、右足を後ろに引いた。そして、右足の足首を回して、その威力を腰に伝えた。今度は腰を回して、その威力を肩に。そして、肩を回すと、そのまま拳を真っ直ぐと相手の顎に打ち込んだ。
考えて動いたわけではない。金髪坊主を思って、二年半サンドバッグを殴り続けた動きだ。拳から血が滲むほど無心で打ち込んできた、僕の右ストレートだ。
ピンッ!という2年半の練習でも一度も聞いたことない音が聞こえた。何かを殴ったときにするような音ではなく、僕の脳内だけで響いた音だ。
忍者になると言ってた会長がうっすら言ってたような気がする。本当にいいパンチのときは無心で、力が抜けていて、自分の中で心地いい音がすると。
とにかくそのピンッという音を聞いた瞬間、僕は全て悟った。
ああ、これだと。2年半の練習、あの日振われなかった拳……
全ては、この一撃のためだったんだ。
そこからの景色がスローモーションに見えた。ビールをかけた直後に、クロスカウンター気味に入った僕の右ストレート。
それを顎にうけたそのパチモンリーダーは、白目を向きながら、ゆっくりと沈んでいった。
その沈んでいく顔に、金髪坊主とキツネ目オヤジの顔が重なる……
ガシャン!!
ビールジョッキが地面に落ちて割れる音と共に、スローだった時間が動き出す。
「きゃあ!!」
さっきまで調子に乗っていた女の悲鳴が聞こえた。それを皮切りに、慌てて退く残りのパチザイル達。
膝をついて倒れたパチモンリーダーは、起き上がろうとするものの、力が入らず、僕の足元でもがいていた。
僕はそれを見下ろして、一言なにか言おうとした。
こういうとき、なんて言えばいいのだろう。クローズZEROで小栗旬はなんて言ってた? なんて言おう……
息を荒くしながら、興奮状態の頭で必死に考える。
そして一言。気がつくと叫んでいた。
「ざ、ざまあみろ、このやろうう!!」
一体誰に向けて吐いた言葉だろうか、声も裏返った。
周りのパチザイル達が、仲間の仇に襲ってくると思ったが、引いているのか向かってこない。
「大丈夫か?」と倒れているリーダーに駆け寄る。
「出て行け! 警察を呼ぶぞ!」
店の奥から、おじいちゃんの店長さんが大きな鍋を振りかざして声をあげた。おじいちゃんも勇気を出したのだろう。
僕はパチモンリーダー達を一瞥すると、ゆっくりと店を出た。僕の気のせいかもしれないが、倖田來未女は目がハートになっていた気もした。
少なくとも最初の「ウチの悪い彼氏がまたヤンチャしてて困るー。もーう。ウチの彼氏悪いでしょー?」感は全くなかった。