【前回の記事を読む】病院から返ってきた彼は別人だった。物足りないと感じていた彼との行為は長く激しくなり、私は初めて絶頂で意識を失って…
第三章 追跡
妻の美幸と二人の子供が、苦しい息遣いで横たわる長谷川をICUの窓越しに祈るように見つめていた。
長谷川は神奈川県警加賀町警察署の刑事課強行犯係の巡査長だ。長谷川は二日前の午前十一時頃に、上司の横地係長と警察車両で横浜元町にある宝石店に急行していた。同店より、宝石と貴金属合わせて約二千万円相当の強奪事件があったと、一一〇番通報を受けての出動だった。
宝石店襲撃犯は三十代前後の男二人で、アジア系の外国人と思われた。そして、その襲撃犯はグレーのセダンで逃走していた。
長谷川が加賀町警察から元町へ向かう途中、「三渓園(さんけいえん)へ行き先を変えろ」と、山根課長から警察無線で指示を受けた。手配中のセダンが緊急配備中のパトカーに追い詰められ、襲撃犯二人は車を捨てて三渓園に逃げ込んでいた。幸いにも、その日三渓園は休園日だった。営業日であれば来園者が人質に取られる恐れがあった。
山手署からも応援が駆けつけていて、多くの警察官が三渓園の入り口付近を取り囲んでいた。横地係長は警察官たちをテキパキと三つのグループに分け、第一グループは正門右ルートから、第二グループは正門左ルートから、第三グループは南門から突入させた。
長谷川は第一グループを率いて正門右ルートから突入した。犯人は拳銃を所持している可能性があり、拳銃を抜いての突入となった。だが、長谷川は致命的なミスを犯していた。緊急指令にもとづく慌ただしい出動だったため、防弾チョッキを装着せずそのまま突入してしまったのだ。
突入してから暫くして臨春閣(りんしゅんかく)付近で発砲音が聞こえた。長谷川がその音の方向に駆けつけると警察官が一人倒れていた。近寄って「大丈夫か?」と声を掛けた途端、右脇腹に大きな衝撃を感じ猛烈な痛みが襲ってきた。その痛みの中で逃走していく犯人の一人に迷わず発砲した。犯人が倒れるのと長谷川が意識を失ったのはほぼ同時だった。
長谷川は肝臓に被弾しており、三渓園近くの大学病院に運ばれた。肝臓の三分の一を摘出する緊急手術は成功したが、大量の出血で危篤状態に陥っていた。