「ひ、ひ、久しぶり。」

意を決して話しかける。声が上擦る。自分でも明らかに緊張して、どもってしまったのが分かった。それほど、久しぶりに見る美穂ちゃんは可愛かった。

気持ち悪く思われてないだろうか。一気に胸中に不安が広がる。

彼女は一瞬大きな目をぱちくりと、びっくりしたような顔を見せたがすぐに宝石のような嬉しそうな笑顔を浮かべて「どうしたの?」と言ってきた。

その笑顔で僕の胸中の不安は一瞬で吹き飛ぶ。

「これ、渡したくて……」

僕は彼女にワンピースの最新刊を差し出した。

「え、ワンピース! 最新刊、出たんだ!」

「それと、ついでにこれ……」

「え、なにこれ?」

僕が差し出したリボンのついた包みを彼女が開ける。

「えっ! アリエルだー! なんで?」

「ゴールデンウィークに家族でディズニーランドに行ってさ、そのお土産」

僕のとっておきのプレゼントは、彼女の好きなアリエルのボールペンだった。

ゴールデンウィークに家族旅行に行こうとなったとき、僕は両親に東京ディズニーランドに行きたいと猛プレゼンしていた。

行ったことのないディズニーランドに行ってみたいという気持ちも勿論あったが、なんとか彼女の喜ぶプレゼントを渡したかった。美穂ちゃんがアリエルのグッズを欲しがってたことはずっと知っていた。

彼女は漫画よりもボールペンをとにかく喜んでくれた。

彼女の新しい友達が「なに、どうしたん? 告白?」と横から囃し立ててくると、彼女は顔を真っ赤にして「ちょっと。やめてよ。」と言った。

「ありがとう! めっちゃ嬉しい!」

彼女のその一言で、僕の千五百円くらいの出費はとても安く感じた。

でもそこから一か月経とうと、二か月経とうと、彼女が僕の元へ漫画を返しに来ることはなかった。

【前回の記事を読む】「僕は完璧な大学デビューを果たそうとしている」七色に染められた"イケてる"髪をなびかせ、話しかけるのは... 

次回更新は10月23日(水)、11時の予定です。

 

【イチオシ記事】老人ホーム、突然の倒産…取り残された老人たちの反応は…

【注目記事】見てはいけない写真だった。今まで見たことのない母の姿がパソコンの「ゴミ箱」の中に