「オレだよ! しゅんはオレだ!」
僕はそう言って前に進んだ。金髪坊主のところへ進んでいく。
そして、後ろをパッと振り返ると……
みんな正座していた。新一郎も、他の仲間たちも。
「ええっ……」
思わず声が漏れた。
でももう僕は止まらない。そして前を向き直した瞬間……
ボコッ!!
鈍い音ともに、閃光が走った。
金髪坊主の右ストレートが僕の顔にクリーンヒットしたのだ。
「痛っ!!」
脳が、これはマジでダメなヤツだと一瞬で僕に伝えた。遊びでも映画でもない、今まで経験したことのないリアルな痛み。鉄の匂いが一瞬で鼻に広がる。
「うわああ!」
このままじゃやられる!
そう察知した僕は無我夢中で金髪坊主に拳を繰り出した。慣れない僕の右ストレート。
それは、金髪坊主のゴツい体、太い首の上についている顔に、ペチンと情けない音を立てて当たった。
金髪坊主は僕のパンチによろめくことも、いったん距離を取ってガードを固めることも一切せず、そのまま僕の襟を掴んで地面にバンッと投げつけた。そこから僕はあっという間に馬乗りになられて、嵐のような拳の打ち下ろしを喰らった。
そのとき僕は思った。
「あっ……これ死ぬ」
今後の大学生活とかそれどころじゃない、自分は今ここで死ぬと。パンチを喰らうたびに目からは火花のようなものが散るし、頭はコンクリートにガンガンに打ちつけている。
どこか甘い考えだった。喧嘩で人は死ぬはずがないと。「クローズZERO」ではあれだけの大乱闘をしてても人は一人も死ななかった。
でもそれは映画の話だ。リアルな喧嘩では人は死ぬかもしれないのだ。そんな大事なことに今気づいたのだ。
金髪坊主は攻撃をやめてくれない。そして、みなさんは経験があるだろうか?
人間が本当に死の間際に立たされたとき、そのときに出る本当の一言、分かるだろうか?
それは……
「助けて……」
助けてなんだ。本当に助かりたかった。僕は振り絞った細い声でそう呟いた。
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次回更新は12月11日(水)、11時の予定です。
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