一歩
日焼けした顔はしわが深くなった気もするが、変わっていない。冷やかすように孝介を眺めて、笑いながら言った。
「遠くから見つけたんだけどさ、声かけにくかったよ。どうすべえって。すっかり都会もんになっちまったなあ」
彼は自分の野菜を並べに来たところだという。道の駅は地域の活性化に役立てたいと、近隣の農家が総出で参加しているそうだ。野菜、花、酪農、炭、民芸品、今まで眠っていた物を掘り起こした。年寄りも女たちにも仕事ができた。
「まあそれほど儲けがあるわけではないが、面白くはなったな。経営ってもんに首突っ込んでる気がしてな」
友人はちょっと誇らしげに、照れて笑った。
「それと村の仲間らで、生活協同組合と年間契約にして野菜を売るようにしたんだ。おれらも作物を計画的に作るようになったし、値段の不安定さも前より解消された。新しいやり方も試してんだよ」
一番の相談相手だった。その時の調子が戻ったかのように、熱く語る。孝介も昔と同じ顔つきで聞き入った。
「おめえ、帰ってくる気はないか。東京も良いだろうけどよ、また一緒に面白い農業ってやつをやってみないか」
農業に夢を抱いたあのころのままに誇らしげに語る友人の笑顔がまぶしかった。
うわさ
「俺たちが時々行ってる飲み屋がなくなるんだって」
「えっ、『およし』が?」
「潰れるのか」
「どうなのかなあ。この前現場で一緒だった、どっかの親父さんが話してた」