言われるままに階段を上がった。部屋を見回し、ここで過ごした濃密な時間の数々が、一気に孝介を襲った。やがて軽い足音がして、よし子が姿を見せた。

「店を畳むのか」

よし子が座るのも待たずに孝介は尋ねた。

「噂は早いのね」

よし子が孝介の両腕を掴んで立ち上がらせた。

「抱いて」

孝介は思わずよし子の顔を見た。静かな表情のままだ。

「先に抱いてほしいの、話はそれから」

よし子は孝介を奥の部屋まで押してゆき、床のかたわらで素早く服を脱いだ。孝介も、裸になり布団に滑り込んだ。

柔らかい体が絡んできた。忘れていなかった、この体を。よし子の胸に顔を押しつけた。柔らかい乳房が頬を挟む。孝介の頭を抱えつぶやいた。

「孝さんを、こうして抱きたかった。いつもいつもそう思ってたわ」

孝介はよし子の口をふさぎ、やみくもにのしかかった。

「待ってよ」

よし子の手が肩を押さえた。

「そんなに急がないで。お願い、ゆっくりして、久しぶりなんだから、もっと私の体、かわいがってからにして」

そうだ、早く済ませようと、はやっていた。

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