「すげえ。大塩のおっちゃん、戦でも始めんのかい?」と、カイが目を丸くする。

「こら。先生になんて口を」

意義がたしなめたが、平八郎はむしろ愉快そうにカイの頭を撫でまわした。

「坊主、ええ勘しとるやないか」

意義は初めて見た時からの疑問を口にした。

「敢えて、街のど真ん中で訓練を披露する……口実は何ですか?」

「百姓一揆対策や。せやったら、見せつけるだけ見せつけた方が効果的やろがい」

もと与力で大坂での人望も篤い大塩平八郎である。口実さえあれば奉行所から訓練の許可を得ることなど容易かったのであろう。腑に落ちた。

「先生は、どこまで進むおつもりなんです?」

ここで明言することなどできまいが、一応訊いてみる。

「勘ぐるな。ただの備えや。備えあれば憂いなし」

「これは失敬。ところで先生、帰りがけに拾いものをしましてね」

話を変え、広場に降りて興味津々と訓練を見ているカイを指した。

「あれか? どう見ても、お主が養子に迎えるような前途ある若武者には見えんが」

「ええ。おそらく百姓上がりでしょう。ただこれから先生が為すことには、ああいう者が必要ではないかと思います」

「ほう。お主が誰かを推挙するのは初めてやな。そら楽しみや」

「それともうひとつ。どうやら内部に跡部と通じている者がいるようです。十手持ちが人斬りを雇って私に差し向けました。年配の男でした」

平八郎と格之助が、顔を見合わせる。

「奉行所を休んでいる与力と同心を調べておきましょう」

格之助は苦々しい表情で言った。平八郎の方は眉をしかめている。そのとき、豆というより栗が爆ぜるような音がした。見ると、塾生の一人が火縄銃を投げ出し顔を押さえている。銃口から煙も立っている。