千鶴は自分で話しているうちに、わくわくしてきた。虎太郎は身を固くした。その体がふるふると震え出した。
「こんなすげえものが……!」と、虎太郎は土俵に上がる直前のように目を輝かせた。
「あっしら、ただただ道路ってもんを作るために、それが何なのかもわからずに、毎日泥だらけになって、命がけで……。そうか、こういう美しくて、人がたくさん往来する活気にあふれた街を作ることに……あっしら、一役買ってるってことですかい?」
虎太郎は息を弾ませた。
「ああ。君たちは、縁の下の力持ちだ。これに勝る罪滅ぼしはなかろう。君たちは毎日、泥を浴びる。埋まっている岩や大きな石を砕き、それを道路の外に積んでゆく。その瓦礫は山となって日の光をさえぎる。
そんな中で、手足に切り傷を負ったり、ひどいときは、指を失ったりする者も少なくない。そう、作業中の事故で死亡した者も多い。だが、そのあとには千鶴の描いたような景色が待っているんだ。虎太郎くん、何とか生き延びてくれよ!」
「へ、へい! ありがてえ! 何てありがてえんだろう!」
虎太郎の流す涙を、竜興は美しいと感じた。
(僕には、二度と流せない色合いの涙……)
竜興は静かに息を吐き出しながら、遠い彼方に、かつて喪った人の面影を見ていた。
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