千鶴は自分で話しているうちに、わくわくしてきた。虎太郎は身を固くした。その体がふるふると震え出した。

「こんなすげえものが……!」と、虎太郎は土俵に上がる直前のように目を輝かせた。

「あっしら、ただただ道路ってもんを作るために、それが何なのかもわからずに、毎日泥だらけになって、命がけで……。そうか、こういう美しくて、人がたくさん往来する活気にあふれた街を作ることに……あっしら、一役買ってるってことですかい?」

虎太郎は息を弾ませた。

「ああ。君たちは、縁の下の力持ちだ。これに勝る罪滅ぼしはなかろう。君たちは毎日、泥を浴びる。埋まっている岩や大きな石を砕き、それを道路の外に積んでゆく。その瓦礫は山となって日の光をさえぎる。

そんな中で、手足に切り傷を負ったり、ひどいときは、指を失ったりする者も少なくない。そう、作業中の事故で死亡した者も多い。だが、そのあとには千鶴の描いたような景色が待っているんだ。虎太郎くん、何とか生き延びてくれよ!」

「へ、へい! ありがてえ! 何てありがてえんだろう!」

虎太郎の流す涙を、竜興は美しいと感じた。

(僕には、二度と流せない色合いの涙……)

竜興は静かに息を吐き出しながら、遠い彼方に、かつて喪った人の面影を見ていた。

【前回の記事を読む】「隙を見て逃げるおつもり?」「ご冗談を!あっしは診察を…」「では、どうして救護小屋で待っていらっしゃらないのかしら?」

 

【イチオシ記事】遂に夫の浮気相手から返答が… 悪いのは夫、その思いが確信へ変わる

【注目記事】静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた