紅の脈絡

千鶴が口を開いた。

「何人殺めたのかは知らないけれど、それ以外に道がなかったんでしょう? あなたの生真面目で愛妻家なところから考えると、そう思えるわ」

虎太郎の目に涙が浮かんだ。ゆきも涙を流していた。

「千鶴。僕が思うに虎太郎くんは正当防衛だ」

「やっぱり!」

ゆきが虎太郎の大きな手に、自分の痩せた手をのせた。

「何があったのか、想像はつくわ。ゆきさんは美人だもの。虎太郎さんは、ゆきさんを暴漢から守るため、相手に張り手の一つもお見舞いしたんでしょう? お相撲さん同士ならどうってことないんでしょうけど、相手が普通の人なら、脳挫傷か何かでってところかしら?」

「うん。そんなところだ」

竜興は千鶴の頭をぽんぽんと軽く叩きながら言った。

「千鶴、そこに置いたスケッチブックを見せてくれないか?」

「わ、わたくしの絵でございますか?」

その絵は、遥かレールの向こうから、機関車の一両目が垣間見えるものだった。レールの左右には、美しい野の花々。一輪一輪、色も形も違う。ただ、一本の背の高い木が、絵の中にも、虎太郎たちが作っている道路から奥に入ったところにもあった。

「千鶴。これは、どこのスケッチだい?」

「はい。そこの、道路の完成予想図ですわ。あ、いっけなぁい。スケッチを銀河系……あ、ええと、スケッチを描くの忘れておりましたわ」

「ははは。それはそれでいいじゃないか」