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あの部屋は、知り合った男の部屋だった。自分の部屋、と言ったのは嘘だ。男は外国人で、就労期間がすぎると一旦国に帰るが、二、三か月すると今度は別の人間のパスポートを持って戻る。とんだ不法滞在者だ。

友だちの兄、というのも嘘だ。ジョジョの女……これはそうだった。二人に部屋を提供したのは男が国に帰って留守の時だった。戻った男が荒らされた部屋を見たら怒るにきまっている。キーラは逃げようと考えた。

自分の荷物を持ち出そうと大きなトートバッグを探した。この部屋へ転がりこむまで、何もかもを放りこんで持ち歩いていたビニール製の袋だ。

ベッドの脇に中身が散乱した状態で投げ出されていたが、拾いあげようとしてキーラは首をひねった。

ぶどうの房の写真を全面にプリントしたバッグはたしかに自分のものだし、あたりに散らかる化粧ポーチや小物もその袋から飛び出たものだが、バッグには以前にはなかった内袋が取り付けられていた。

口を巾着(きんちゃく)で閉じるような布製の袋が、内側にすっぽりとはまって本体のバッグに接着されているのだ。こんなデザインで売っていたとしてもおかしくはないが、自分の持っていたバッグにはなかった細工だ。

誰がやったのかは疑いようがなかったが、なんのためにと不審に思う。キーラはその布袋を引っ張り出そうとしたが、側面にしっかり接着されていて離れない。思い切ってハサミで布袋の底を切り開いてみた。するとその下に何かを包みこんだ新聞紙が底板代わりにぴったりと動かないようにガムテープで固定されていた。キーラの胸は高まった。