開けてみれば、札束が二つ。キーラの予想以上だ。これだけあれば一、二年はなんとかなる。
ジョジョの得意先を脅して、二人がかなりの金を巻きあげていたことは知っている。うまくやっていたのだ、あの二人は。
―こんな手のこんだことして。まさかあたしに?
思うことはいっぱいあった。だが、ぞくりと感じたのは、恐ろしさよりも後ろめたさよりも、しめたという思いだった。これがあればとにかく逃げられる。あの時はそれしか考えられなかった。
キーラは札束をバッグの底に戻すと、あたりに散らばったものをつめこんだ。しかし、思い直してもう一度中身をぶちあけると、さげていた小型のバッグを空にして札束だけをねじこみ、あとのものは衣類と一緒にトートバッグに突っこみ部屋を出た。
もしもジョジョがどこかで待ち伏せていたなら、部屋にあったトートバッグを抱えた自分を疑うかもしれない。そんな時はこのバッグをすんなり渡して、その隙にこの小さい方だけ持って逃げよう。そこまで考えて部屋を出たが、幸い誰に見つかることもなくキーラは故郷の村まで帰り着いた。
「悪運かどうか知らないけど、あたしはついてる」彼女は鏡に向かって宣言した。
あの時は大金を持ち逃げした。今日は今日で、危ないところだったがジョジョには気づかれずに済んだ。
―絶対捕まったりなんかするもんか。
鳩尾(みぞおち)のあたりで恐怖はまだ脈打っている。キーラはそれに呑みこまれるものかと自分を奮い立たせた。
―エゴル……。
そのとき、バスタブからお湯があふれそうになっていることに気がついた。