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ユーリは鏡に向かって電気シェーバーを滑らせていた。朝夕といわず、日に何度でも剃りたくなる。剃らずにいられないほど伸びているわけではないが、彼は仇の(かたき) のようにひげを剃る。

ひげだけではなく、髪の毛以外の毛という毛は全部いやだ。金髪だからまだいいようなものだが、人よりも毛深くて、腕にも臑(すね)にもくるくると巻いた毛が貼り付いて、もう不快でたまらない。これも自分の一部かと思うと、わっと声をあげて叫びたいほどだ。

一度剃ってみたが、そうすれば今度は硬く突きあがった毛がちくちくと痛くて、その違和感も我慢できなかった。以来、体の毛はあきらめたが、顔に生えてくるのは許すものかと剃りまくる。

神経質になりすぎているのだとは思う。世の中には貧弱な体型や無毛に悩む人間もいて、そんなやつから見れば自分のこの過敏さは馬鹿げているにちがいない。ほんの少し考え方を変えて、授かった男らしさを自慢に思えるようになれば、どんなにか人生が楽になることか。わかっている。

わかっているが、このがっしりとした体と、それを覆っているこの毛がどうしても受け入れられないのだ。つまり自分が望む以上の変化がほしくないだけだ。もう少しほっそりとしたしなやかな体と、子どものころのような透ける肌でいたかっただけだ。カーシャのように。

【前回の記事を読む】自分の顔が嫌いだった。臆病そうで、弱い顔。化粧を落とすと、鏡の向こうから、貧弱な素顔が物憂げにこちらを見返している。

次回更新は11月18日(月)、21時の予定です。

 

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