「じゃあ、俺は帰るよ。あんたも達者でな」

帰り際にもう一度キーラの左肩をぎゅっと掴んだ。あの時の男の手の痕が、刻印されたように今でも自分を脅かすのだと、キーラは暗くなったバスの中でエゴルに話した。

「はあん、それでこの村へ逃げ帰ってきたってことだな、たった一人で。だけどそれだったらもうちょっと目立たないようにしているもんだろう。みんなと同じように青い作業服着ていれば平気な顔をしていられたんじゃないのか」

エゴルが不用意さをたしなめると、キーラはきっとなって反発した。

「あんな恰好しろって! 冗談じゃないわ」

「よく言うよ。さっきまで震えてたくせに」

そこを突かれればキーラに返す言葉はないが、よくも悪くも自分を通した結果が今の自分だ。そのせいで危ない状況に陥ってしまったが、利口になって回避しろと言われれば気持ちは逆立つばかりだ。

「こんな寂れた村なんか、いつまでもいてやるもんか!」

苛立ちは結局そこへぶつけるしかない。

「だけど、それをつけてたおかげであの男も気づかなかったみたいだし、運がよかったな」

エゴルは、キーラが手にしたサングラスを指差した。

「今日のところはね。だけど、あいつがもしも思い出したとしたら」

キーラはまたぶるっと体を震わせた。

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次回更新は11月16日(土)、21時の予定です。

 

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