エゴルは不快そうに顔をしかめた。なじまない隠語を使って突っ張っているつもりか知らないが、若い娘には似合わない。非難がましい顔をすれば、余計なお世話とばかりにキーラはそっぽを向いた。
「かくまってくれって、あたしの部屋にきたの。泣きついてきたのよ」
ぽつりぽつりと事情を話しはじめたキーラは、そこまでしなければよかったと後悔を口にした。
足のつかない自分の部屋を提供して、その間自分は別の友だちのところに身を寄せた。しばらくのことだからと言われて、三日に一度は飲み水や食料を差し入れていたが、半月くらいして部屋でジョジョと鉢合(はちあ)わせてしまった。
鍵を開けて入ったら、いきなり後ろから口を塞がれた。革の手袋のにおい。持っていた荷物を取り落とし、紙袋から飛び出した林檎(りんご)が床を転がっていくのが妙にゆっくりと見えた。自分の横を、友だちの兄が若い男二人に両脇を抱えられ酔っぱらいのように引きずられていく。後ろから自分の口を塞いでいる男の声がした。
「なあ、ねえちゃん。あんたここの部屋の人かい」
口を塞がれて返事などできるはずもない。キーラはとにかく、自分は彼らとは何も関係がないんだ、助けてくれと必死に目を剝いて訴えた。
男はキーラの口を解放すると、今度は前に回り、彼女の両肩を押さえて顔を覗きこんだ。口元に笑みをふくませているが、その目はキーラの皮膚を通り越し、心臓の裏に震えながら逃げこんだ小ねずみのような彼女の恐怖心をいびり出しては面白がっている目だ。
「世話になったが、もう終わりってことにしようじゃないか。あんた、何か見たかい? そんなこたぁないよなあ。あんたの部屋でなんにも起こるはずはないよなあ。そうだろ?」
キーラは目を見開いたまま、首を縦に何度もふりおろした。男がそれを見誤らないように、もういいと言われるまで、彼女は必死にうなずき続けた。
「呑みこみの早い子でよかったよ」
男はにたりと笑って手を放した。床に落ちた紙袋を拾いあげるとキーラの胸に押しつけ、彼女が男の目を凝視したまま受け取ると、男はそれでいい、と言うようにうなずく。