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去っていく車の音を聞いていたにもかかわらず、キーラはまだ真っ青な顔をして動こうとしないので、仕方なくエゴルはそばに行って座席に腰をおろした。

「ニコのことをたずねていったよ」

「ニコのこと?」

キーラは不審そうに顔をあげ、それからふうっと体に溜めこんでいた息を一気に吐き出した。少しほっとしたのか、ようやく座席の上に身を起こしてサングラスを外す。泣いたせいか、目の下の化粧がにじんで殴られたように黒くなっていた。

「よかった、あたしじゃないんだ。ね、あいつ店で見かけたあたしのことはちっとも気にしてなかった?」

ああ、とうなずくと、彼女はやっといつもの顔を取り戻した。

「知り合いなのか。あんなチンピラと」 

キーラはしばらく黙っていたが、観念したかのように口を割った。

「こっちからは願いさげだけどね。あいつ、ジョジョって呼ばれてて、イェンナの裏街じゃちょっと知られた顔なの。あたしの友だちの兄貴があいつとやばいことになって……」

言いよどむキーラに、エゴルは聞く権利があるとばかりにせっついた。

「よりによって、あいつのネコと付き合ったんだよ。金も絡んでたし……」

「猫? ああ、つまり商売ものってことだろ。お前、そんな汚い言葉どこで覚えてくるんだ」