「それはそうと、おにいさん、ニコの立ち回りそうなところ知らないか」
「ニコ?」
てっきりキーラのことをたずねられると思っていただけにエゴルは意表をつかれた。
「ニコって……あれは鐘つきをやってた人だから、この村からほとんど出たこともないんじゃないかなあ」
「鐘つき。ああ、そう言えば鐘の音がどうのとか聞いたな」
男は何かを思い出したようにうなずくと、車から顔を出して鐘塔をふりかえった。
「鐘って、あれかい?」
エゴルがそうだと言うと、男はサングラスを額に持ちあげて、眩しそうに目を細めた。
「ないじゃないか、鐘が」
「ニコが売ってしまったらしいんだ。それがあって、急に姿をくらましてね」
全部を言わないうちに男は、「はあん、なるほど」とうなずいた。じゃあな、と軽い会釈をするとウインドウがゆっくりとせりあがり、男の車はエンジン音を轟かせて通りを出ていった。
車が見えなくなるまで見送ってから、エゴルはバスの中にいるキーラを探した。最初に隠れていた座席には見当たらず、
「大丈夫だ。もういったよ」
と声をかけると、後ろの方の座席から探るようようにそっと顔を出した。
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次回更新は11月15日(金)、21時の予定です。