「リリーちゃん、こんにちは。今年もよろしくね」
「はい!」
笑って返事をしたとき、リリーは、カノンの顔を見て「あっ」と小さくつぶやきます。
「カノンさん、もしかして今日、あまり調子がよくないんですか?」
「えっ?」
「いつもより元気がなさそうに見えたので」
すると、カノンは「あら、ばれちゃった」と恥ずかしそうに笑って、肩をすくめて見せました。
「昨日の夜、ついついアイディアが浮かんじゃって、遅くまで仕事をしちゃったの。今日はちゃんと寝るわ」
「気をつけてくださいね」
「ええ。ありがとう」
今日は、カノンと一緒に、弟のカイも家にいました。
「カイ、こんにちは」
カイは、あごを引いて小さくうなずきました。そっけない態度に、リリーはほんの少しだけさびしい気持ちになります。
「リリーちゃん、ごめんね」
「いえ、大丈夫です。カイがやさしい子だって、ちゃんと分かってますから」
こっそりとささやき合うふたりを横目に、フルールは、立派な尻尾をさかんに振っていました。久しぶりにカイに会えたことが嬉しいようです。
「ほら、フルールも、久しぶりにカイに会えて嬉しいみたいですし」
リリーは、気を取り直してフルールの手綱を握り直しました。
【前回の記事を読む】本当は、この日が来るのがほんの少しだけ怖い。春を呼ぶ仕事を終え、村が春を迎えてしまったら、「春を呼ぶ少女」としての私は…