春を呼ぶ少女
カノンには、リリーと同じくらいの年のカイという弟がいます。いつもカノンの仕事を手伝っているのですが、今日はいないようです。
「となりの村に、生地を買いに行ってもらってるの。あの子、私もびっくりしちゃうくらいセンスがいいから。何か用事があるなら、伝言するわよ」
「いえ、大丈夫です。いつもカノンさんと一緒にいるから、今日はどうしたのかなと思って」
「あの子、最近、反抗期だからね。ちょっとそっけないの」
「それは……おじさんとおばさんも旅行に行ってるのに、少し、さみしいですね」
カノンの両親は、冬の間は暖かい場所でのんびりしたいと言って、旅行に出かけています。リリーの言葉に、カノンは小首をかしげて笑いました。
「そうね。リリーちゃんが本当に妹だったらよかったのに、って、いつも思うわ」
「私にとってはもう十分、カノンさんは私のお姉さんですから、大丈夫です」
「ふふっ、どうもありがとう」
カノンは幼い頃から、いつもリリーの面倒を見てくれていました。リリーの両親が流行り病で亡くなったとき、いちばん心配してくれたのも、カノンとその家族です。
リリーにとって、カノンや、その弟や、その両親は、第二の家族のように大切な存在でした。
「あら、リリーちゃん。そのベスト、ボタンが取れちゃいそう」
「えっ? あっ」
見ると、ブラウスの上に着ていたベストのボタンの糸がほつれていました。紺色のベストに合わせてあしらわれた、深い青色のバラのボタンが取れかけています。
「繕ってあげるわ。ちょっと貸してみて」