春を呼ぶ少女

「リリーちゃんとフルールは、飼い主と愛馬って感じがしないのよね。どうしてかしら？」

そう言っていたのは、先ほどお茶に誘ってくれた、仕立屋の店主のカノンでした。

「当然といえば、当然よね。だって、春を呼ぶ仕事をする家に、一緒に生まれたんだもの」

生まれたときから—それよりももっと前から、リリーは、フルールと強い何かでつながっていたような気がしています。

「もうすぐ春、か……」

ぽつりとつぶやいたそのとき、小鳥がふわりと飛び立ちました。羽をせわしなく動かし、リリーの頭上でくるりと一周してから、高く飛び上がって去っていきます。

「フルール、もう動いて大丈夫よ。ありがとう」

フルールは、ほっとしたようにリリーの周りをゆったりとしたテンポで歩きます。自分よりずっと小さな生き物が背中に乗っていたからか、緊張していたようです。

「お疲れさま。ニンジンでもどうぞ」

リリーは、おやつ用に持ってきていたニンジンを取り出し、フルールに食べさせました。

「さてっ、と。私も背中に乗っていい？　久しぶりに走りたくなっちゃった」

リリーは、小さなかけ声と共にフルールの背に乗ります。高い馬上から見る景色は、いつもの何倍も広々としていて、空も少しだけ近くなったように思えました。

手綱を握ると、短いかけ声と共に思い切り走り出します。手綱を通じて、フルールの浮き立った気持ちまでもが手のひらに伝わってきました。

こうしてフルールに乗って走っているとき、リリーはいつも思います。フルールと一緒なら、どんなこともできて、どんな場所にも行けるのではないか、と。