カノンは、ティーセットを持ってきて紅茶をいれながら言いました。

「そう……だったらいいんですけど」

「ほら、あのお話の中にもあったじゃない? 昔は、待てど暮らせど村には全然春がやってこなくて、村の人たちは、終わりが見えない冬を必死にしのいでいたって。でも、『春を呼ぶ少女』が現れて、『長い冬もいつかは終わる』って、みんな春を楽しみにするようになったんじゃないかしら」

この村の冬を終わらせるために、魔法使いの力を借りて春を呼んだ村の女の子。その物語は、今も村の大人たちから子どもたちへと語り継がれています。リリーも、幼い頃に何度も母から聞かされていたので、すっかりそらんじることができました。

「どんな女の子だったんだろう……」

リリーのつぶやきは、カノンが出してくれた紅茶の湯気にふわりと溶けていきます。ひと口飲んだその紅茶は、心がキュンとするような甘酸っぱい味がしました。思わず「おいしい」とつぶやいてしまいます。

「よかった。お客さまにおすそわけしてもらったから、せっかくなら誰かと一緒に飲みたくて。ひとりで飲むより、ふたりで飲むほうがおいしいのよね。来てくれてありがとう。リリーちゃんと話していると、やっぱり楽しいわ」

「そ、そう、ですか……?」

「ええ。リリーちゃんの存在が『春』そのものだもの」

リリーは、心の奥でさざ波が立つのを感じて、あわてて話題を変えました。

「あっ、あの、そういえば、カイは……?」

 

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