後ろへ後ろへと流れていく景色と共に、心に絡みつく重苦しい想いが、全て遠くに行ってしまうような、晴れやかな気持ちになるのです。そんな、胸が弾むような心地よさが大好きで、リリーは時々、フルールと共に走りにくるのでした。
フルールと共に仕立屋に向かったときには、ちょうどおやつの時間になっていました。ずいぶん長い間、一緒に雪原で走っていたようです。
「こんにちはー」
「リリーちゃん、いらっしゃい。どうぞ入って」
「おじゃまします。フルールは、ちょっと待っててね」
フルールを庭先につながせてもらい、リリーは店の中に入ります。店主のカノンは、たくさんの洋服や生地が並んだ店内を進んでいき、アトリエに通してくれました。
「あっ、カノンさん。その赤いリボン……」
「ふふっ、使わせてもらってるわ。とってもかわいいから」
彼女が髪に着けていたのは、先日、リリーがサンプルとして作って渡したヘアアクセサリーでした。カノンのつやつやとした栗色の髪に、あざやかな赤色のリボンがとてもよく似合っています。
「このリボン、お客さまからとても人気なの。春のお出かけ着と一緒に買っていく人も多いわ」
「そうなんですね。よかった」
「リリーちゃんの作るアクセサリーは、どれもすてきね。春と夏向けのものも、またお願いしていいかしら?」
「もちろんです。春を呼び終えたら、さっそく作りますね」
リリーは、簡単なアクセサリーや小物を縫って村の市で売り、細々と暮らしています。カノンは、そんなリリーの作品をとても気に入ってくれたうえに、自分のお店にも商品として置いてくれているのでした。
「みんな、春を楽しみにしているみたいね。春にはこれをやろう、あれをやろうってワクワクしていて。おとなりの村でもうわさになっているみたいだし、『春を呼ぶ少女』は、うちの村の誇りね」