【前回の記事を読む】白銀に輝くオオカミ…その背後から十歳くらいの子どもが現れた。白い肌に白い髪、そして特徴的にとがった耳。エルフだ。

春を呼ぶ少女

「うん、そうか。大丈夫だよ。ありがとう」

その言葉に安心したのか、小鳥は、リリーの目の前に飛んでくると、きゅっと目を閉じました。

「手袋を、森の入り口から持ってきちゃったんだって。『ごめんなさい』って言ってる」

パールが、小鳥の伝えたいことを教えてくれます。リリーは、驚きつつも、小鳥を安心させるように言いました。

「返してくれたんだから、あやまらないで。それに、どうもありがとう。この手袋の持ち主の子、きっと喜ぶわ」

すると、小鳥はもう一度、リリーとフルールの周りを踊るようにくるりと飛び、森の奥へ去っていきました。

「あの小鳥が手袋を持ってきちゃったの、ぼくのためだったみたい」

「えっ?」

「ぼくの手がいつも冷たいから、手袋があったら喜ぶんじゃないか、って思ったんだって。ほら」

リリーは、パールが差し出した手にそっと触れます。その手は、ガラスのようにひんやりとしていました。

「エルフは人間じゃないから、手が冷たいんだ。だから……動物たちに触ると、いつも驚かせちゃう」

パールが手を引っ込め、ため息を吐(つ)きました。ほのかに悲しそうな響きを持った声音に、リリーの心がきゅっと苦しくなります。

リリーは、少し考えて、「そうだ」と言いました。

「あの、私が、パールさんの手袋を編むのは、どうですか……?」

「えっ?」

「手袋があれば、動物たちに触っても大丈夫なら……私が作ります。得意なんです、手袋とか、マフラーを編むのも」

パールは、目をぱちくりさせて驚いていました。そして、しばらくしてから、くすりと笑います。

「君、本当にあの子にそっくり」

「それは……いちばん最初の『春を呼ぶ少女』に?」

「うん。おせっかいで、おひとよしで、すごくやさしい……春の匂いがする女の子。ねえ、君、本当にリリアじゃないんだよね?」

「はい。私の名前は、リリー、です」

リリーは、「リリア」という名前を聞いて驚きました。「リリー」と「リリア」、どちらも同じ「ユリの花」という意味を持つ名前です。そのつながりに、リリーは、何か運命めいた温かいものを感じました。

「そっか……じゃあリリー、手袋、楽しみに待ってるよ」

「はい。できたら、すぐにこの森に届けに来ますね」

「そのときは、君の愛馬に、また森の入り口でぼくらを呼んでもらうといいよ。そうしたら、ぼくがいる場所まで、小鳥たちに案内させるから」

パールが言った、そのときでした。