今まで静かにたたずんでいた冬の神様のオオカミが、リリーのすぐそばに寄ってきました。そして、そのまま森の入り口の方向に足を向けます。

「パールさん、冬の神様はいったい何を?」

「冬の神様が、君たちを森の入り口近くまで送ってくださるって。この森の夜は、危険ではないけれど……暗くて怖いから」

冬の神様は、少し進んだところで振り返ります。すると、フルールはリリーの頬に自分の頬をくっつけるようにして、「行こう」と促しました。

「分かったわ、送ってもらいましょう」

フルールの首を撫でてやると、冬の神様とパールに言いました。

「ありがとうございます。とても助かります。それに、パールさんも。また来ますね」

「うん。いつでも待ってる」

パールに手を振って別れると、リリーはフルールの背中に乗りました。

冬の神様は、森の中の細い道を、ゆったりとしたペースで歩いていきます。

もう日はすっかり沈んでいて、森はぞっとするほど深い暗闇に包まれていました。でも、大きな身体を持ったオオカミと一緒だと、そんな暗い道も不思議と怖くありません。

森の入り口の近くに着くと、リリーはもう一度、冬の神様に丁寧にお礼を言いました。

「どうもありがとうございます。今度は、パールさんのための手袋を持って、森に来ます」

冬の神様は、その言葉にほんの少しだけ表情をゆるめたように見えました。そして、尻尾をふわりと揺らして、森の中へと去っていきます。

その姿が暗闇の中へ消えていくのを見届けてから、リリーはフルールの顔を見ました。

「さあ、急いで届けなきゃね」

リリーは、フルールの首を女の子の家のほうに向けます。手綱を握ると、フルールは一目散に走り出しました。

「ごめんくださーい」

女の子の家の扉をノックすると、現れたのは、温かな雰囲気をまとった、きれいな女の人でした。先ほど会ったメルと同じ、やわらかな金色の髪をしています。

「あの、メルちゃんのお母さまですか? この手袋を拾ったので、お届けに来ました」

「まあ。それはそれは……」

「あ、おねえさん!」

母親の言葉が終わらないうちに、家の中から声が聞こえます。あわただしい足音と共に顔を出したのは、メルでした。

「こんばんは。手袋を届けに来たわ」

「ありがとう、おねえさん!」

ぎゅっと抱きついてきたメルに、リリーは、

「もう失くさないようにね」とほほ笑んで、手袋をわたしました。

 

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