春を呼ぶ少女

彼女は、今リリーが着ているものと同じ乗馬服を身にまとい、フルールに似た白い馬に顔を寄せ、にっこりと笑っています。その横には、黒いコートを着た美しい女性が立っていました。

おそらく彼女が、あの物語の中に出てくる「春を呼ぶ力」を少女とその愛馬に贈った魔法使いなのでしょう。

彼女たちのおかげで、今、この村の人たちは、春を心待ちにしながら冬を過ごすことができているのです。そして、今、この村に春を呼べるのは、リリーだけなのです。そう思うと、不安や怖さが少しずつゆるんでいくような気がしました。

もう一度、鏡に自分の姿を映すと、きゅっと口角を上げて言います。

「行ってきます」

外に出ると、フルールにも特別な馬具を身に着けさせました。これで、準備は全て完了です。

「うん、やっぱりよく似合ってる」

リリーのジャケットとおそろいの花の模様があしらわれた鞍、淡い金色の手綱。美しい馬具を身に着けて堂々と立つフルールの姿は、まるで幻想的なおとぎ話の世界から抜け出してきたようでした。

「フルール、行きましょう。春を呼びに」

フルールが短く鳴き、リリーが乗りやすいよう、脚を折って身体をかがめてくれます。リリーはその背中に乗ると、手綱をしっかりと握りしめました。

石畳の道を歩くフルールのひづめの音に気づいたのでしょうか。おとなりの薬屋のおばあさんが、家から出てきます。

「おはよう、リリーちゃん。そろそろ、春かしら?」

美しい衣装を身にまとったリリーを見て、おばあさんはやさしく目を細めます。

「ええ。春を呼びに来ました」

フルールは、指示を出さずともおばあさんの家の庭に足を向けました。

「今年もよろしくね」

「はい。任せてください」