コロナ禍に垣間見えたドライバー軽視

このような印象を強く感じさせたのが、コロナ禍における物流およびドライバーへの社会の冷淡な対応である。物流軽視を象徴する一例として、簡単に経緯を振り返っておく。

2019年末に中国で確認された新型コロナウイルスだが、2020年に入って早々に日本国内でも感染者が確認された。その後、国内での感染の拡がりに伴って、政府より緊急事態宣言が発出された。

緊急事態宣言では、不要不急の外出制限が要請される一方、「社会の安定維持に必要」と政府が指定した業種には、事業継続が要請されることとなった。

この、エッセンシャル・ワーカーに相当する業種の枠組みには、行政サービス、国防等と並んで「物流・運送サービス」も指定された。トラック運送業等にも事業継続が要請されたわけである。

ここまでの対応は諸外国と大きな差はないのだが、日本の対応が独特だったのは、事業継続を要請する一方で、トラックドライバーに対する支援がほとんど無かったという点である。

コロナ禍で事業を継続するということは、必然的に感染症に罹患するリスクを伴う。よって諸外国では、事業継続を要請することの「埋め合わせ」として、ドライバーに対し各種の支援策が提供されたのである。

具体的には、マスク等の感染防止資材の優先配布、ワクチンの接種の優先といった措置であり、また、感染リスクが生じる労働者に手当てを支払う「ハザードペイ」という制度を導入し、ドライバーを含むエッセンシャル・ワーカーに支給したような国・地域も少なくない。一方の日本では、このような支援策は、筆者が調べた限り確認できない。

コロナ禍のような緊急事態にも関わらず、物流への政策的支援が行われることなく、現場任せになってしまう状況からは、旧日本軍の兵站軽視ではないが、日本社会に根付く物流軽視の傾向を感じずにはいられない。

兵站が軍事活動にとってエッセンシャルであるのと同様、物流やドライバーは社会生活に不可欠である。そのような認識が社会の共通認識となっていないことが、コロナ禍で露呈したと言えるかもしれない。


注:『トラック運転手の年収、新人でも最高1400万円に     米ウォルマート』(Forbes JAPAN 2022年4月14日掲載)https://forbesjapan.com/articles/detail/46951 

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