第2章 物流・SCM軽視の実態

2-2 物流・SCM出身者が活躍できない日本企業

前項では物流危機の背後には、企業の物流軽視があることを述べた。それを踏まえ、ここからは企業内の各層にわたる物流軽視の実態を確認していくこととしたい。

グローバル企業における物流・SCM専門家の活躍

日本における物流・SCM軽視の分かりやすい「証拠」の一つが、日本企業での物流・SCM出身者の社内における冷遇である。

日本では物流・SCMの専門家と言えるような経営トップはほとんど見当たらないのだが、世界中を見渡せば、物流・SCM出身の著名経営者を数多く挙げることができる。その中でもよく知られているのが、アップル社CEOのティム・クックである。

周知のとおり、スティーブ・ジョブスに請われてアップルに入社したティム・クックは、ジョブス後のアップルをCEOとして率い、世界最大の企業(時価総額基準)に成長させた立志伝中の人物である。

一方、彼がサプライチェーンの専門家だということは、日本ではほとんど知られていない。彼の略歴を簡単に記すと、以下のとおりである。

オーバーン大学で生産工学の学位を取得した後、IBMでサプライチェーン分野の業務に就く(後にデューク大学のMBAも取得している)。IBMでは最終的に北米フルフィルメントのディレクターを務める。

その後、コンパック・コンピュータの副社長等を経て、98年にアップルに移籍する。なお当時はスマホ誕生前であり、コンパックはPC製造の同業であったことに留意していただきたい。

当時のコンピュータ産業は、多数のベンダーから仕入れた部品を組み立て、販売するアセンブリー産業の様相が強かったが、技術革新スピードの速さによるモデルチェンジのスピードと相まって、需給のミスマッチによる在庫増大が大きな問題となっていた。

そのような背景のもと、ティム・クックはサプライチェーンの専門家としてアップルに招かれたのである。

そして同社では、リードタイムの短縮やサプライヤーの削減により、在庫水準を2ヶ月から1ヶ月へと大幅に削減した。このようなサプライチェーン分野での成功が、後の輝かしいキャリアにつながっているのである。