第2章 物流・SCM軽視の実態

2-1 物流危機の背後に垣間見えるドライバー軽視

エッセンシャル・ワーカーの中でも低いドライバーの地位

文化人類学者のデヴィッド・グレーバーが『ブルシット・ジョブ/クソどうでもいい仕事の理論』(酒井隆史・芳賀達彦訳、岩波書店)で指摘したとおり、現代社会ではエッセンシャル・ワーカーとは真逆のホワイトカラーが高収入の傾向にある。

例えば、社内の会議資料を作るだけの「パワポ職人」のような「クソどうでもいい仕事=ブルシット・ジョブ」のほうが、介護労働者などより待遇面では優遇されているのが現代社会である。

「ブルシット・ジョブ」がなくても社会は成り立つが、医療・介護や警察などの職業なしには社会は回らないことを踏まえると、これは社会の矛盾というほかない。「エッセンシャル・ワーカー」という言葉には、このような真に必要な職業をリスペクトしなければならないという、欧米社会の問題意識が反映しているということもできる。

話をトラックドライバーに戻す。

トラックドライバーは生活必需品をはじめとした各種物資を運んでおり、ドライバーなしに社会は成り立たない。従って当然、ドライバーもエッセンシャル・ワーカーである。

しかしながら前項で見たとおり、ドライバーの職業的地位は低い。付け加えるなら、ドライバーは看護師、警官等の他のエッセンシャル・ワーカーと比べても、その地位が低い傾向が否定できない。

日本社会ではエッセンシャル・ワーカーにリスペクトを示すという意識が十分に広がっていないことも問題だが、それに加えて、ドライバーがエッセンシャル・ワーカーだという認識自体が薄いとも感じられる。その背景には、社会にとってエッセンシャルな機能であるはずの物流への軽視の思想が垣間見える。