はじめに

物流・SCM軽視は日本経済の構造的課題

「トラックドライバーが集まらず、モノが運べない」という物流危機への懸念が高まっている。

その直接的な原因は、ドライバーの賃金の低さや労働条件の劣悪さであり、また、そのような賃金・労働条件を招いているトラック運賃の低さである。

ただし、この説明では物流危機を招いた本当の原因を十分に説明しているとは言えない。トラック運賃の低さが物流危機の原因であるならば、運賃の見直しをすれば良い。もちろん、運賃を値上げする原資がないという企業も多いだろうが、その場合は、トラック1台でより多くの貨物を運べるような輸送効率改善を図る等、次善の策を考えるべきである。

運賃の低さは、物流危機の原因というよりも、危機を招いている真因がもたらした結果の一つでしかない。

むしろ本当の問題は、このような危機を前にしてもなお、適正運賃を支払うことをせず、また輸送効率改善にも本腰を入れて取り組まないような企業側の姿勢である。その背後にあるのは、日本企業に根深くはびこる「物流軽視」の思想である。

後述する様々な調査データから分かるとおり、日本企業の多くが物流はコア・コンピタンス(企業の中核能力)ではないと考えている。言い換えれば、物流が競争優位につながらないと考えているということであり、このことと物流危機が自社の競争力を損なうリスクに無関心であることとは、表裏一体の関係にある。

物流軽視の「思想」は、ビジネスの現場に様々な問題となって現れている。後ほど詳しく説明するが、「物流出身者は役員になれない」「物流専門職としての採用枠がない」「物流部門はリストラの最優先候補である」などの傾向が、その典型である。

「物流の地位の低さ」は産業界内では「当たり前のこと」のように受け止められており、「会社内でいかに物流部門が冷遇されているか」というのは、もはや物流関係者の自虐ネタの域に達している。

さらに議論を広げれば、物流軽視の風潮は産業界に留まらず社会全体で確認できる。「大学教育における物流軽視」「政治・行政における物流軽視」や、「軍事における兵站(へいたん)軽視」などもその一例である(図表1)。