対照的な日系PCメーカー
ティム・クックに限らず、成功したSCMの専門家が企業トップに就く例は、世界中で数限りなく挙げることができる。経営トップに至る主要コースの一つが物流・SCMだと言っても良いかも知れない。
翻って日本企業では、物流・SCM担当部署から企業トップが生まれる事例は非常に少ない。
そもそも(後述するように)役員になるケース自体が少ないうえ、物流・SCMは他部署のプロパー社員が片手間的に担っているケースが多く、専門職の採用自体がほとんど行われていないのが実態である。
この点は、かつてアップルと競合関係にあった日系PCメーカーを見ると対照的である。周知のとおり、日本にも強力なPCメーカーがいくつも存在した時代があった。少なくとも国内市場ではアップルよりも優位にあった時期さえもあった。
しかしながら、日系のPCメーカーでは、物流・SCMの専門家が役員クラスに就くことさえほとんど無く、また、コンピュータ部門出身者が経営トップに就いたケースもほとんど無かった。
例えば、かつてPC98シリーズが看板商品だったNECであっても、PC事業がピークを超えつつあった99年になるまで、コンピュータ部門出身者がトップに就くことはなかった。
このような状況であるから、物流・SCMのキャリアを持つ人物がトップに就くことは、なおさら考えにくかったのである。
なお、日系PCメーカーのその後の経緯は周知のとおりである。かつて大手電機メーカーがこぞって手がけていたPC事業は、いずれも不採算事業に転じ、現在ではパナソニック以外の各社は実質的に撤退し、一部は中国系メーカーの傘下で生きながらえている。
もちろん、日系PCメーカーが、マイクロソフト―インテル連合やアップルをはじめとした欧米企業に敗北した要因が「物流・SCM軽視」だと言うつもりはない。とはいえ、日本企業の物流・SCMが、これら企業に劣っていたこともまた、否定しがたい事実のように思える。
それが主たる要因ではないとしても、物流・SCM軽視が幾ばくかの影響を与えた可能性を否定できないとするなら、やはり不幸だと言うほか無い。
資料:ブリタニカ百科事典https://www.britannica.com/biography/Tim-Cook『7 Supply Chain Lessons from Tim Cook』 2023年5月閲覧
https://www.supplychainopz.com/2013/10/7-traits-great-supply-chain-leader.html
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