【前回の記事を読む】大事なことは対話の糸口を掴むこと。やんちゃな学級に専科教員として臨んだ際の記録

第1章 「楽しさ」と「実感」がある授業のために…

1-4 教育とは──対話を重視してともに学ぶ

<授業内容:山田耕筰の歌曲を聴く>

対話の記録・教室の様子

児童:いや、なんちゅーか、広がっちゃうからさー。

教師:広がる?

児童:音の幅とか。上と下に広がって、間にいないから2人さ。

教師:2 人ずつ上と下だったら?

児童いや、上の音は1 人で、下の音も1人だよ。1人にしか聞こえない。

教師:なぜ?

児童:ううん……上手くいえないなあ……。

(すぐに次へと進む。『この道(混声四部合唱)』かける。……かかると同時に反応)

対話が止まってしまうことのないように。

児童:もっと広がった!

教師:……ところで楽しそうな感じかな?

「広がる」の感覚は既に教室中で共有されているため、いい換え等にはこだわらず、他の視点への転換を促す。

児童:いや。

教師:なぜ?

児童:なんとなく……。

──ここまでの4曲で10分強。テンポよく流してきた。ここからじっくりになるだろうか。

『待ちぼうけ(男声)』をかけようとする仕草をゆっくり見せる)

CDを聴く、という“規律”が定着したことを確認してみた。教師の動作に注目しているとしたら、ここからは“聴ける”のである。

児童:次の? 早くかけて!

(聴くと同時に)

児童:男だ! この歌、面白い! 

教師:なぜ面白い?

児童:ウサギが転がった、とか言ってる。

木の根っこにぶつかったって?

男が?

この段階に及んで、歌詞も聴こうという態度に変わってきている。こうなれば、聴く姿勢はでき上がっているといえよう。チャンス到来。……さらにその姿勢を揺さぶる。

教師:次のを聴こう。

児童:いや、もう1回聞きたい! もう1 回かけて!

(せがまれる)

いやあ、ケチ!

しかし、次の広がりを期待して進む

(全員がステレオに注目している)

『待ちぼうけ(混声四部合唱)』をかける)

教師:どんな様子が思い浮かぶ?

(元気よく様々な答えを口々に言っている)

もはや、様々な観点(歌詞の内容や楽曲の構成、合唱団の様子等)を自分なりに持って“聴く”態度へ変化している。

※これが授業規律として定着していけば、一問多答の豊かな授業に発展していくことになる。

児童:・木の根っこと転がったウサギと、おじさん。

   ・待ち構えているおじさん。

   ・50人くらいの合唱団。

   ・面白そうな顔や、びっくりした顔をして歌っている。

   ・最初元気なのに、だんだんとおとなしくなってくる。

──最後の2曲で20分強。聴き込んでいく姿勢に、時間的な面でも変化が表れたのが見て取れよう。

(去り際に)

児童:もっと聴きたかったな~。

今度、いつやるの?

♪待ちぼ~け~。

こうして子どもたちは、しっとり聴き込む音楽鑑賞授業の世界へと足を踏み入れる準備ができてきた。しかし、まだ、それは準備にすぎない。