【前回の記事を読む】「癌なんだ…5年くらい前から」突然そう打ち明けた彼。混乱する私を前に、彼は腰を抑えて膝から崩れ落ち…

アントライユ

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二人の葬式は酷いものだった。

飲酒運転による事故死。自業自得だと思う。不倫なんてした天罰。死体はグチャグチャで顔も判別がつかなかったから、一緒に弔うことになったらしい。

予想はしていたが、親族たちが互いに罵り合い、殴り合いにまで発展した。一番驚いたのは、私のおばあちゃんが千春のおばあちゃんにお焼香を投げつけたことだった。

耳障りな罵声と怒号に思わず身が震えたが、千春が私の額をコツンと小突いてくれたから、少し安心した。

葬式だからと言って愛別離苦(あいべつりく)の感情は一切ない。むしろ、ざまぁみろと言わんばかりに千春の髪は金髪のままだったし、私も赤いままだった。その上、二人ともピアスを全て付けていた。親戚たちからは白い目で見られたけど、私は千春が居れば無敵な気がした。

「マジで良い気味」

「だね」

雨は親の死を悼んでいるように思えるかもしれないが、実は私たちが嬉しくて咽び泣いているだけなのだ。

「傘、ささないで行こう」

「良いね」

千春の提案に乗った。私たちは、なけなしの金で買った着慣れない喪服で雨の中走った。泥水が裾を汚したが、一切構わなかった。睫毛から零れ落ちた雫が、渇いた目を潤した。

「あはは! 千春速い! 待って!」

「無理!」

アパートに駆け込み、冷えた身を温めようと着替える。濡れたストッキングが張り付いて気持ち悪い。千春がTシャツを渡してくれて、喪服を脱ぎ捨てる。

「これ、千春のじゃん。良いの?」

「一番近くにあったヤツ。別に良いよ」

脱いでいる間にチラリと見える千春の体は痩せこけていて、肋が浮き出ている。それを見る度に心にポッカリ穴が空いた様な、芯から冷える様な感覚がした。ご飯食べないからこうなるんだよ。と頭の中で彼にチョップをする妄想をして、自分を落ち着かせた。