また、音楽鑑賞の学習指導過程の類型と適用1)について、少し触れておきます。
「○○に注意して聴きましょう(→後述【B】)」という指示が極めてその典型を示すのですが、教師が示した聴取のポイント(楽曲の構成や使用されている楽器、特徴的な旋律 (メロディー) の反復 (くりかえし) 等)に沿って聴かせるという授業法が一般に行われます。教育雑誌や研究会・講習会等で紹介される実践例には、この形が多く見られます。
一方、「どんな気分?(→後述【A】)」ということを問いかけるような自由な実践も多く行われています。
その大きく分けて2通りの形態を「音楽を聴き味わう活動を【A】」「味わうための能力を高める活動を【B】」とすると、「【A】のみの活動」「【B】のみの活動」「【B】→【A】の活動」「【A】→【B】の活動」「【B】→【A】→【B】」のような、様々なものが想定できます。しかし、これらのいずれも、効果を上げる場合と、成立さえしない場合とがあります。
それは、「関心・意欲・態度」(主体的に学習に取り組む態度)という観点から見て、「聴く態勢が整っているか否か」との関係が鍵となります。
「ベートーベンに興味がある」「音楽鑑賞が大好き」といった「関心」「意欲」に満ちていたり、日ごろから話を聴く態度がよい、厳しい先生でピシっとした学級(これは必ずしも主体的であるとはいえませんが)等、何らかの形で「関心・意欲・態度」を満たす状況があるならば、先述の【A】から導入すると効果を上げる傾向があります。
一方、それらの状況にないならば、【B】から導入して、知識等を得ることにより、「関心・意欲・態度」につなげていくということを目指していくことになります。先掲の例は、やり取りの中から、徐々に【B】的なことを紡ぎ出し、【A】的なことにつないでいく意図をもった展開です。
【A】から導入する場合、「この曲を聴いて、お話をつくってみよう」とか「どんなときに聴きたい曲かな」「どんな様子が思い浮かぶかな」ということを、一緒に考えながら聴きます。
【B】の場合は、「シンバルの音に注目してみようか」とか「同じふしが何回出てくるかな」「○○を表した部分はどこだろう」と提示して、一緒に反応しながら聴きます。その上で、「印象」と「そう聴こえる原因」の関係性を一緒に考えていきます。
【A】【B】いずれから導入した場合も、これらを関連づけること(聴き取ったことと感じ取ったこと(知覚と感受)を結びつける)が重要で、どちらも含んだものにすることを忘れないようにしたいところです。
1)芳賀均「音楽鑑賞教育に関する実践的研究─効果的な指導過程についての類型的考察─」『学校音楽教育研究』14、日本学校音楽教育実践学会、2010、pp.162-163.