【前回の記事を読む】父の余命が3か月を切った——姉から「もし倒れていても、救急車は呼ぶな…警察に家宅捜査されるぞ」と言われて……
第一部 父
在宅医×訪問看護師×ヘルパー
家事代行サービス会社の家政婦が来るようになった。
僕が作る料理では、母が認知症になる前に父に作っていた家庭の味には及ばなかった。その欠落を、料理専門の家事代行サービスで補おうというのだ。
家政婦は若い三十代の主婦。週に三回交代で来てくれるという。
母は家政婦がキッチンにいるのに、リビングで大声で「お金は払うの?」「月水金?」と同じことを一分おきに訊いてくる。頭が痛くなる。
家政婦に料理を作ってもらっている間、母を連れだし、クッキーの散歩に行く。すこしでも母を疲れさせて夜眠らせないといけない。人が来ることは母にとっては刺激になるようだったが、家政婦から〈いい年した男が昼間から家にいるなんて〉と思われているのではないだろうかという被害妄想が出て、とても疲れた。
母だけ異常なほど食欲があり、体力もある。こっちはエネルギーを吸いとられていく感じだった。
この日、家政婦が作ってくれたものは、野菜、卵、豆腐、魚を使ったバランスのとれた料理だった。問題は父の食欲だ。せっかくの料理も、魚料理と汁物以外は手をつけない。
父も僕も、母のことで疲れはてているのに、母だけが無駄に食欲と元気が有りあまっている。
「おいしいよ?」
父を促(うなが)しても、お前が食べろ、と言って手をつけない。
料理はおいしいが、父が食べないのでは家政婦を雇う意味がないのではないかと思えてくる。
ゆっこから連絡があった。
「じぃじは、がん研のソーシャルワーカーに、さっちゃんやはやとの食事が心配、って言ってたよ。だから家政婦を頼んだんだよ。はやともきちんと食べて、自分の老後のために健康を維持しないとね。自由に動けないほどつらいものはないよ」
そうだったのか。余命三か月と宣告された父の体を心配して、僕は家事代行サービスを頼んだが、父もまた母と僕の健康状態を病床で心配してくれていたのだ。涙がでた。家政婦には、次回から父用に滋養のある汁物を作ってもらうことにした。
おーい
おーい
夜、自室で寝ていると、父に起こされた。
真夏だというのに部屋の温度が四〇度もある。母がエアコンを暖房にしてしまったらしい。暖房を消すと、父がほっとして言った。
「はやとがいてくれて助かったよ」