6 パパのいない日常へ

一週間以上一緒にいてくれた姪っ子も家に帰り、パパのいない日常が始まった。

何をしていたか正確には思い出せないが、とにかくいろいろいそがしかった。それが救いだった。

一人での運転中はよく泣いた。どこへ行っても、パパと行った道ばかりだし、子供に見られないですむし。

よくテレビなどでリンゴを手で掴みガシガシとぐしゃぐしゃにする映像が流れるが、私の心臓はずっとそのリンゴみたいだと思っていた。

ずっと息が苦しい。右足を前に出して、次は左足を前に出す、そうしないと歩けないんだなと、この時よくわかった。時々、気付くと息を止めていたり。

だからこの時、やることがあるのは本当に助かった! そして私の心臓よ、よくもってくれている。ありがとう。

半月後くらいだろうか、私の前では泣かなかった息子が、夜遅くに顔を引きつらせながら、「ママ……」と一言二言、言葉を絞り出しながら話し始めた。

これまで何よりも最優先にしてきた大好きなサッカーを、今はなんでかわからないけどやりたくない、やる気になれない、何も。

こんな気持ち初めてでよくわからない、どうしていいかわからない。勝手に涙が出て止まらない!と、息子は声にならない声で泣き始めた。

私は何年ぶりかに息子を抱きしめた。それしかできない。

「そうだよね。当たり前だよ。そうだよね」

私が言えたのはそれだけだった。彼を引き上げ救える言葉なんて、何一つ言えなかった。

その翌日、彼は、中学生の頃からかわいがってくれているサッカーの師匠たちに山中湖へ釣りに誘われ、連れて行ってもらった。

父が亡くなったことをその人たちは知らない。父の死を知らない人と、父と共に歩んできた『サッカー』から離れた数日間で、息子はまたサッカーに向き合う決心をして帰ってきた。

パパが師匠たちにこっそり頼んだ釣り旅行だったのかもしれない。息子には間違いなく必要な数日間だった。

ずっと思っていたのだが、本当に息子は周りに恵まれている。私と同じである。

 

▶この話の続きを読む
私は、亡くなった夫の日記を勝手に読んだ。生前は読ませてもらえなかったが、そこには仕事への悩みがかなり荒い言葉で書かれていて…

👉『ボタンのありか』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】ふざけて彼女の体に触れると、聞いたことのない甘えた声が返ってきた。気まぐれな一夜だと思っていたのに——

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp