廊下の奥に小さなドアがあり、『刑事教養第3係』の表札が掛かっていた。高井良はドアをノックした。

「失礼します」

中に入ると随分狭苦しく、左手に灰色のロッカーが2台あり、中央にはテーブルがあり、椅子が4脚並べられている、ただそれだけの殺風景な部屋だった。

テーブルの上に開かれたノートPCをぼんやり眺めながら、30歳くらいの女性がコーヒーを啜っていた。高井良は直立敬礼した。

「本日よりこちらに配属になりました高井良悠です。若輩者ですが、よろしくお願いします」

女性はぽかんとして彼を眺めていたが、「ダサっ」と言って、再びPC画面に視線を戻した。

「えっ」

「えっ、いや、『えっ』じゃないよ。ダサって言ってんの。今時新人の挨拶で敬礼なんてする人いないでしょ。軍隊じゃないんだから。私あんまりダサい人とは話したくないのよね」

「あのお、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、ごめん、ごめん。私、光信(みつのぶ)詩(うた)」

「光信さんも教養第3係なんですか?」

「そうよ、よろしくね。君は左側のロッカーを使ってね。もう名前書いておいたから」

「ありがとうございます」

高井良はロッカーに鞄を入れた。右のロッカーの名札を見ると『木曽』と書かれていた。

「あのお、係長はどちらに?」

「知らない」

「どちらかにお出かけですか?」

「知らないよ。朝から見てないし」

「えっ、もう10時ですよ。遅刻? いいんですか、連絡しなくて」

「うるさいなあ。こんなの日常茶飯事だって。そんなことで連絡なんかしたらまた怒られるだけなんだから」

「結構ルーズなんですね」

「はい、1,000円」

詩は数枚の1,000円札が入っているお菓子の空き缶を高井良に差し出した。

「何ですか、これ」

「ここのルールで無教養なことを言ったら罰金として1,000円徴収することになってんの。さすがに『てにをは』は免除だけど」

「無教養? 係長はルーズじゃないってことですか?」

「それを言うならルーズ(lose)じゃなくてルース(loose)ね。

本当はルーズソックスも『靴下をなくす』という意味になっちゃうからルースソックスが正解ね。どっちにしろ外国人には通じないと思うけど。

そんないい加減な言葉、天蓋さんの前で言ったらめちゃくちゃ馬鹿にされるからね。気をつけた方がいいよ」

「いや、僕もそれくらい知ってますよ。ただ、みんながそう言ってるからつい……」

高井良は渋々1,000円を缶に納めた。

 

▶この話の続きを読む
頭部を至近距離から撃たれ、死亡した男性…だが警察が現場をいくら捜しても、撃ち込まれたはずの“弾丸”だけが見つからず…

👉『ダウトマン』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】2人も産んだ女の体。本当は見せたくないのに…仰向けになったところで、脇を舐められ、「いや?」と聞かれ…

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp