【前回の記事を読む】彼氏が私の“そこ”を「あったかくて、毛がふわふわで猫みたい」と言った…だから「にゃんこちゃん」と……
バニーガールの夜
3 熊の手を借りる
立ち去ろうとした私の手を、彼がつかんだ。
そして、何か硬いものを手の平に握り込ませてきた。
思わず自分の手を見る。
手の中にあったのは小さな熊手だった。
私の手よりは少し大きいくらいのサイズ感。材質は竹で、色は黄緑。
よく神社に置いてあるのを見かける、神棚か何かに設置するとおぼしき熊手である。
彼は私の手に熊手を握らせたままで、ほとんど泣きそうな表情で言う。
「これ枕元に置いといて、つらくなったら、これで俺のこと引っかいたらいいから。あんたに爪で引っかかれたり歯でかまれたりしても、イヤなんかイヤでないんか俺にとっては確かではないから。せやから、ちょっとでもイヤだったら、これで引っかこうとしてくれたら、あんたがこれを手に持っただけでもイヤなことは伝わるから」
かわいそうなくらい必死なように見えた。今にも幼い子供のように泣き出しそうな顔をしている。
「それ、神社の熊手でしょ? 他のもののほうがよいのでは?」
罰当たりにならない?
「色々と考えたんやけど、安全面を考慮するなら熊手がベストかなと思って。でも金属製は痛そうやし。本物の、金属の熊手がよかったか?」
「金属製は引っかいたら怪我をしそうだけれど、でもそれって確か商売繁盛のお守りだよね?」
恋愛成就とかではなくて。安産祈願でもなくて。
「もしかして抵抗あるか?」
「うーん、まぁ別に、わざわざ他の熊手を買うこともなさそうだけど」
「ほんなら、これで試してみてくれるか?」
私は泣きそうな彼の勢いに気おされて、うなずいた。
「ええか、イヤやったら熊手を挙げるんや。練習な。これは?」
片方の手に熊手を持ったまま直立不動の姿勢を取っている私の肩に、彼が手を載せる。
「イヤじゃない」
次に、私の顔に手を触れる。
「これは?」
「イヤじゃない」
「オッケーやな。しばらくは、これでいくで。イヤやったら挙熊するんや」
「きょくま?」
「熊手を挙げるから挙熊や。別の呼び方がいいか?」
「なんだか熊がでかいみたい。あと、ホッキョクグマを思い出してしまう」
「何やったらええんや?」
「きょくまでいい! きょくまするかも私!」
「ちょっと局部麻酔みたいやけど、そこは堪忍してもらわなあかん。局麻は局麻で挙熊は挙熊や。これは?」
彼は私の唇に手を触れる。
「平気」
唇を触られているからしゃべりにくいけれど、熊手を持った手は下げたままにしておく。