「じゃあ、これは?」
彼が私の口の中に指を入れる。
「ちょっときょくましたいかも」
若干ならず発音しにくいが、熊手は挙げずにそう言った。
「挙熊するほどではないんか?」
私はうなずく。
なんて丁寧な人なんだろう、この人、と呆れつつ思う。
「これは?」
彼が私の口の中に入れた指で私の口の端をぐいっと引っ張るようにしたため、私は熊手を目の高さまで持ち上げた。両手で。
彼はすぐに手を離す。
「すまん」
「わざとでしょ?」
「今のはわざとやな。すまんかった」
その後、竹製の熊手は私の枕の隣が定位置になった。
ほとんど滅多に利用されることはなかったが。
きょくましたくなりそう、と私が言うだけで彼は大抵の場合は分かってくれるし。
いつの間にか熊手を置いておく必要もなくなって、暗黙の了解としてベッドサイドの棚の上に置かれるようになって、最終的には、うっすらとほこりをかぶってきたため二人で神社に納めに行った。
私たちの熊手の活用法を知ったら、罰当たりだと怒る人がいるのかどうかは不明である。
ともかく、私と彼は神社の賽銭箱の前で、おそらく人生で最も真面目に手を合わせたのだった。
◆
「あなたのほうは、何にするの?」
「ちゃんこがいいかもしれん」
「じゃあ、にゃんこちゃんと、ちゃんこちゃんね」
「ちゃんこちゃん」
「ちゃんちゃんこじゃないよ。ちんちんこでもないよ」
「ちんちんこはアウトめやけど」
「ちんこちん」
「うーん、まあアリかな」
「かちんこちん」
「それは無駄に硬そうやな」
次回更新は9月19日(土)、22時の予定です。
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