【前回の記事を読む】「あなたのことですよね」施設に入った少女は15歳で投身したはずだった。“河原賽子”の名の由来を口にした瞬間、刑事の顎が外れて……
サイコ7――コンビナートの決闘
7月4日の夜、青木ヶ原訓練所の会議室の大きなテーブルの上座に青竜が座り、左手に山口、右手に西須が座っていた。
まずは山口が口を開いた。
「明日の国会議事堂襲撃計画ですが、中止した方がよろしいかと存じます。総裁が襲撃を予告されたため、警視庁が議事堂周辺に厳戒態勢を敷いています。
それに加えて臨時国会の召集も中止となっています。原防衛大臣もすっかり弱腰になっていて、自衛隊の協力も得られそうにありません。これでは計画の失敗は確実です」
「いや、予定通り計画は実行する」
「しかし……」
「君は何も分かっていないねぇ」
青竜は侮蔑するような眼で山口を一瞥した。
「私は敢えて計画を声明してやったのだよ。敵の寝首を掻くことしかできないような卑小なテロリストたちと一緒にされてはたまらんのでね」
「しかし危険すぎます。総裁ご自身の安全もですが、味方にも多数の犠牲者が出るでしょう」
「死ぬのが怖いのかね?」
青竜がぎろりと金色の瞳で射すくめると、山口は恐怖で冷や汗を掻きながら声を震わせた。
「まさか。私は、総裁のためならいつでも身命を擲(なげう)つ覚悟ができています。しかし……」
「心配せずともよい。襲撃にはオスプレイ1機分の兵数で十分だ。君と同程度の覚悟の者がそのくらいはいるだろう。
私はその機体で議事堂に乗り込む。当座の王座としてはあそこが最も相応しいからな。
君は私と一緒に来たまえ。それより」
青竜は今度は西須の方を見て続けた。
「問題は河原賽子の方だ。彼女は必ず私の妨害をしてくるだろう。
君と八重沢君には彼女を引き留めておいてもらわなければならない。倒すことは難しくてもそのくらいならできるだろう?
いずれ彼女には私自らが引導を渡してやらなければいけないと思っているが、明日の計画は地上の王となるべき私の戴冠式だ。
無粋な人間に神聖な儀式を邪魔されたくないのだよ」
その時、会議室に設置されたスピーカーから大声が聞こえてきた。
「引き留める? 冗談じゃない。俺が必ず奴を八つ裂きにしてやる。あいつがこの俺にしたようにな!」
八重沢の声は以前のような機械音声ではなく、本来の肉声を取り戻していた。彼は体のサイズの問題でこの会議室には入れず、リモート会議で参加していたのである。
「勇ましいねえ。その意気だ。頼りにしてるよ、八重沢君」
スピーカーからエンジンの唸り声が聞こえてきた。
「それでは作戦会議は以上だ。今夜はゆっくり休みたまえ。明日の健闘を祈る」
青竜は散会を命じた。西須の眼にはいつになく暗い翳が湛えられていた。