【前回の記事を読む】右耳を見せた瞬間、12歳年下の男は「ああ」と目を潤ませ、その顔を私の耳元すれすれまで寄せ……
耳
耳を疑う ゆりえ三十二歳 1
その日は参観日だった。5年生のまゆりは友達も多く成績もまあ上位、多少の落ち着きのなさ以外は、取り立てて悩むべき点もない。
なので、ゆりえが学校に行く時に気を配るところは自分のファッションくらいだった。
あまり派手に着飾ると、ここ千葉の外れの小都市では浮き気味だし、かといって量販系のファストファッションを人よりお洒落に着こなせるほどスレンダーでカッコ良くもない。中肉中背、そんなゆりえを引き立てるのは、トップスは明るめの色味で上質素材のシャツブラウス、ほんの少しデコラティブだと品のある女らしさが醸し出される。
まだあまり近所ではデビューさせていないアイボリーのブラウスと紺系のパンツに着替えて、よしっと鏡に頷く。まゆりの担任がイケメンなわけでもない。母親の集まる場所に衣装選びをするのは、単にゆりえの見栄っ張りで負けず嫌いの性分がそうさせる。
今日は一日学校開放DAYなので、同じクラスのかのんちゃんママとこうたくんママはランチをしてから午後から来るらしい。張り切って朝から行く人は少ないのかな。そんなことを考えながら、白く乾いた校庭を斜めに横切り昇降口へと向かった。
砂埃で少し白くなってしまった低めのパンプスを脱いで花柄のスリッパに履き替え、顔を上げた時だ。既にスリッパに履き替えたママが2人こちらを見ていた。
「あっ」
反射的に手を挙げて笑いかけた。4年生まで一緒のクラスで、よくママ会をしていた二人だった。ところが、ゆりえをじっと見ると顔を見合わせ、くるりとうしろを向き足早に去っていく。
えっと思う。子ども同士のトラブルかしらと思う。だが、親に似て社交的で調子のいい娘、今までこんなことはなかった。首を捻る。