その翌日のことだった。同じマンションに住むママ友から「お茶しに来ない?」とラインが入った。即OKをして、斜め向かいの棟の5階、みゆちゃんママのうちへ。

玄関ドアは開いていて、カラフルなビーズとスパンコールでデコられたサンダルが目に入った。これはみゆちゃんママのテイストではない。誰だろうと想像しながらリビングに入ると、隣のクラスのけんとくんママが既に紅茶を飲んでいた。

あれっ、ここそんなに親しかったっけと少し首を捻りながら座ると、みゆちゃんママがゆりえををじっと見つめて椅子を促した。

何度もお邪魔しているリビングなのに、なぜだろう、ぴりりとした緊張感がある。いつもは一緒のメンバーでないけんとくんママがいるからなのか、そのママの服がおそらく人気ブランドだからなのか、そしてモデルばりに綺麗だからなのか。

いやいやそんなことより、みゆちゃんママが様子がいつもと違う。ゆりえと目を合わせるとすっと目線を下げぎこちなく笑う。家に呼んでおいて何なんだろと気持ちが泡立ってくる。

ゆりえの前にジノリのフルーツ柄のカップに入れた香りの高い紅茶と六花亭の生チョコを添えて、みゆちゃんママも座った。

少しの沈黙。すると二人は目を合わせる。すうとみゆちゃんママが息を吸い、思い切ったというように話し出した。

「あのね、まゆりちゃんちの噂があるのよ」

「えっ、噂? 何、何だろう」

教えてほしくて口にしたのに、それきりみゆちゃんママはおし黙り、変わってけんとくんママが口を開く。

「あの、これからいうこと、私が言い出したわけではないの。ただ、私も見かけたし」

「見かけた」

何だろうと頭を巡らす。

「水曜日の4時ごろ……」

「水曜日?」

まゆりの英語のレッスンの日だ。特に遠出もしていない。

あ!と声に出していた。そして笑ってしまった。怪訝な顔でまた目を合わせる二人。

「やだあ。みゆちゃんママにはいってなかったっけ。そうかぁ。かのんちゃんちとこうたくんちにはその日のうちに会ったから報告したんだけど」

「報告したの?」

みゆちゃんママが口を押さえる。

「そうなの。あの日、駅前のスーパーの自転車置き場で自転車を盗まれちゃったのよ」

「ええっ。自転車を」

大きな声を上げて眉をしかめたのは、けんとくんママだ。美人のけんのある顔は迫力があって少し身体を引く。

「そうなの。買い物をしていたら店内で友達に会っちゃって、長話をしてから出てきたら私の自転車が影も形もないのよ」

「いやだあ。ほんとに?」

今度はみゆちゃんママだ。

大きく頷いてゆりえは話を続けた。

その日のできごとは家族にもちろん話した。夫にどれくらい店の中で話してたのか聞かれ、1時間くらいと答えたがほんとはもっといた。もうすぐ開催のフリマの話から始まり、ずっと先の謝恩会の準備の話やらで盛り上がってしまったのだ。もちろん自転車には差し込みタイプの鍵はかけていたから何の心配もしていなかった。

私はひとつも悪くない。

次回更新は7月23日(木)、20時の予定です。

 

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