【前回の記事を読む】自転車を盗まれ、警官と話していただけ。それが、ママ友の間では「万引きした主婦」と噂されていて……

耳を疑う ゆりえ三十二歳 3

自転車を持ち去られた被害者なのに、なぜか他のクラスのお母さんに万引きの噂を立てられたゆりえ。一刻も早くそれを払拭しなければと焦る。

スーパーの出入り口で落ち込みながら説明をしている私の姿が、事情聴取を受けている主婦に見えたのだろうか。悔しくてたまらない。叫び出したくなる。そして私のために夫や大事な娘のまゆりまで色眼鏡で見られたり、あの子とは遊ばないでなんて言われたら……。

ほんとになんて損をしたんだろう。今日も出掛けたスーパーの帰り、少し迂回をして交番の前を通った。あの時のお巡りさんまで恨めしく思える。

気がつくと買い物のビニール袋を下げたまま立ち止まっていた。するとちょうど戸口付近に立っていたお巡りさんと目が合った。

彼だ。間違いない。どうしてくれるんだ。そんな思いでじっとりと見つめると、や、とばかりに明るい目をして軽い敬礼をしてきた。

ゆりえはさっと身を翻して家に急いだ。

噂がどうにもなくならない。それどころかさらに広まっているのではないか。そんな気がする。銀行に行っても買い物に行っても家族で緑道を散歩していても、その想念が離れない。最近はママ友からお茶に誘われても外食に誘われても断り気味だ。そうすると余計に怪しく映るのだろうか。

幸いなことに、まゆりだけはいつも通り通い友達とも遊んでいる。

このところのゆりえは日課のひとつとして、交番の前を通るようになっている。そうして、あの男を見つけ出す。わかっている。悪いのは自転車泥棒。ほんの出来心、高校生のいたずらなのか、いや、まだ犯人も決まったわけではないが、とにかくお巡りさんのせいではない。でもあの時の光景が発端で……と思いは行き当たる。

十中八九、彼はいた。ゆりえはもう帽子を被る角度で見極められる。許されているのか知らないが、ほんの少しずらして傾げている。帽子からはみ出す髪はいつも分量が同じで整えられている。

戦隊ヒーローの青服の俳優に似ている。そういえばかのんちゃんママが交番にひとりイケメンがいると春先に騒いでいたっけ。いや顔はどうでもいい。

なんであそこで私を辱めたのか。会って突き詰めたい。「職務です」と彼は答える。いや、あんたのあの行いが私をいかに苦しめたかわかるか。強い思いが、ゆりえの瞳に青黒い光をともし、固く結んだ唇に切ない思いがみなぎる。