その日は夫が隣の県の支店に出向だった。
帰宅は夜中だと連絡が来た。まゆりと二人なので、出来合いのお惣菜とスイーツを買って夕ご飯も入浴も済ませ、あとはテレビでもゆっくり見ようとしていると、まゆりが明日エプロン持参だと言う。地元でとれたお芋をふかしてスィートポテト作りのレクがあるそうだ。
「もうどうして早く言わないの」と叱ったあと、留守番をさせてひとりで駅前のスーパーに向かった。2階の衣料品コーナーで比較的無難と思われるエプロンを買い求め、店を出た。
お風呂上がりでまだ少し生乾きの肩までの髪が風にそよぐ。お気に入りのトリートメント剤が香って、しばらくぶりに優しい気持ちになった。
まゆりを留守番させているのに、気がつくと足が交番の方に向かう。少し歩きかけ、いや帰ろうと思いUターンして歩き出す。ターミナルの横の林道を選んだ。人通りは少ないがさほど暗くはない。
好きなアーティストの鼻歌が出る。その時、くいっと右腕を掴まれた。買い物袋が大きく揺れた。浅黒い細めの腕。顔を上げて確かめなくてもわかった気がした。
「捕まえた」
「はっ」
初めは聞き間違いかと思った。耳を疑った。ただ握られた手首から熱を感じた。
「ずっと見てたでしょ。オレのこと」
「はあ? まあ」
落とした目の端に夜目に暗めの紺色の制服が入った。
ほんとに逮捕されちゃった。そんなふうに肩をすくめて見上げると、制帽の下の涼しい目とばっちり合った。帰らなくちゃと思うのに、彼について駅裏の先の小さな公園の方に足が向いていた。
また、噂されちゃうよ私。そんな思いが浮かんだ。「パパ、ごめん」とも思った。
最近、雅人をパパとしか呼ばない。最後にマサ君と呼んだのはいつだっけと思いながら、足はマンションとは逆に進んでいる。
次回更新は8月6日(木)、20時の予定です。
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