追跡

享子は朝6時まで仕事をしている。だから交代、引継ぎ、着替えなどを済ませて6時30分くらいには駐車場から動き出すだろう。

手のひらの中のスマホの中の点が、駐車場の点がついに動き出した。あれ? 点が駐車場からスーパーの中に移動して、止まったまま動かない。10分、20分と経つ。動かない。

「ヤバい!」

GPSが見つかっちゃったか? トシカツは頭の中に嫌な妄想がよぎる。享子が

「店長、車に何か変なものが付いているのですけど?」

なんてやらかしたりしてないか? 心臓が止まる。

やっと25分後、点が動き出しそのまま道路に出て走り出した。トシカツはホッとして止まっていた心臓が点と共に動き出す、手にしていたウーロン茶をゴクっと飲んだ。

GPS初心者のトシカツには、後でわかったことだけどGPSの弱点の一つに上下がないということである。つまり享子は、買い物をして荷物を積みやすくするため、スーパーの立体駐車場の2階に車を移動させていたのだ。

1階も2階もGPSでは同じ点となるため、あたかもGPSがスーパーの中に入ったように表示されていたのだ。

GPSには他にも弱点があって、この後GPSの他の弱点でトシカツを困らせる事態も発生するのだけど、それは後の話となる。こんな事態が、発生しなければ、経験しないことだろう。

ともあれ、点は順調に走り出す。方向的には北区に向かっているから家に帰るのだろう。途中停まったのは、家の近所のコンビニくらいで、しかも5分くらいだからタバコでも買ったのだろう。享子は喫煙者なのだ。